古市雅子 きっかけは東大入学式祝辞――いま、中国は上野千鶴子ブーム
古市雅子(北京大学准教授)
きっかけは東大入学式の祝辞
突然のようにも見えるこのブームは、どうして起こったのだろうか。
直接のきっかけは、2019年の、東京大学入学式における上野の祝辞である。東大、そして日本社会のジェンダー・ギャップに言及し、日本でも話題になったこの祝辞を中国語に訳したものが、高学歴女性を中心にSNSで拡散された。当時、私のまわりにもこの祝辞を読んで涙を流したという学生がたくさんいて、大きな話題になった。彼女たちが胸を突かれたのは、「がんばってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」という言葉だ。
同年、上野は中国を訪れ北京や南京など数ヵ所で講演を行ったが、北京の清華大学での講演には、北京大学など周辺の大学からも学生が駆けつけ、大盛況であったと聞く。大学生の間では、すでにそれだけの知名度があった。
それが、コロナ禍の数年を経てさらに大きな流れとなった。
理由の一つは、上野の著作が相次いで翻訳・出版されたことだ。中国の出版業界では、2022年は「上野千鶴子イヤー」だったと言われ、1年で7冊の著作が翻訳・出版された。しかしそれだけではない。経済発展に伴う格差の拡大や階層の固定化、そして新型コロナウイルスの感染拡大によってもたらされた閉塞感など、中国社会を取り巻く様々な環境から、上野の言葉が必要とされたと言っていい。