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「極中道」は民主主義の救世主か、破壊者か

吉田 徹(同志社大学教授)

既成政党凋落による「中道回帰」

 例えば、既成政党を解体しての中道政治を推し進めようとしているのは、2017年からフランス大統領を務めるエマニュエル・マクロンだ。彼は、前年に新党「前進!」(後に「共和国前進」、現「再生」)を立ち上げ、凋落著しい保革両政党の改革派を吸収して、親EU・親グローバル化を推し進める、経済学者ブルーノ・アマーブルらがいうところの「ブルジョワ・ブロック」を形成してきた。22年の国民議会(下院)選で生まれたハングパーラメント(どの政党も議席の単独過半数を獲得していない状態)、さらに今年の欧州議会選と続く解散選挙での与党敗退は、マクロン中道政治の困難を物語っているが、極右と極左に挟まれた中道勢力をまとめ上げようとする試みは、今後ともフランスで継続することになるだろう。

 隣国ドイツに目を転じれば、実に05年から21年まで続いたアンゲラ・メルケル政権は、その第2次政権(09~13年)を除き、CDU/CSU(キリスト教民主同盟・社会同盟)とSPD(社民党)との大連立政権であったことを想起しても良いだろう。これは、3回の選挙を経ても二大政党のいずれも、ジュニアパートナーを含めても過半数を得ることできず、かつ極右AfD(ドイツのための選択肢)との連立が政治的に不可能だったことに起因している。ドイツでも、大政党の凋落は中道での統治を余儀なくされたのである。

 イギリスでは、先の7月に実に14年ぶりとなる労働党政権が誕生した。しかし、これを率いるキア・スターマー内閣は、コービン前党首が掲げたようなNATO(北太平洋条約機構)離脱や高所得者に対する最高賃金の制限といったラディカルな政策を封印し、インフレ抑止、NHS(国民保険制度)改革、不法移民対策など、前スナク保守党政権が重視した政策を引き継ごうとしている。16年のブレグジット国民投票後からのポピュリズムの波(ジョンソン政権)と経済的失策(トラス政権)を経て、イギリス政治は保革二大政党による政権担当能力の競い合いという、いわば憲政の常道に戻ろうとしている。

 イタリアでは、22年に極右・保守政党の連立であるジョルジャ・メローニ政権が発足した。しかし同国でも、1992年に、いわゆる「第二共和制」へと移行してから、チャンピ内閣(93年~)、モンティ内閣(2011年~)、あるいは最近のドラギ内閣(21年)など、党派性を有しない「テクノクラート政権」を定期的に経験してきたことを忘れてはならない。そのメローニ政権も、右派ポピュリスト色を薄め、外交安全保障政策と経済政策においては現実主義的な政策を遂行していることから、「ポピュリスト・テクノクラシー」などと呼称されるに至っている。

 少なくともフランスとドイツ、そして部分的にイギリスに共通しているのは、極右・極左に包囲された既成政党の衰退と、これに対するオルターナティブとして中道で統治することの模索である。フランスでは、1980年代以降、政権交代を繰り返してきたドゴール派(現、共和派)と社会党候補の得票率は、2022年の大統領選でいずれも5%にすら届かなかった。ドイツでも、1990年にはCDU/CSUとSPD合わせて約8割あった得票率は、現在では5割程度に落ち込んでいる。イギリスにおいても、約7割を占めていた二大政党の得票率は6割以下に減り、代わりに改革党(リフォームUK)や緑の党の議席獲得など、多党化現象を経験している。つまり、既成政党の政権与党としての地位喪失が、中道への回帰を余儀なくさせているといえよう。

 こうした現実政治における中道志向はどのように名付けられ、解釈されるべきか──「極中道」という概念は、左右両極に振れているように見える政治の背後で進む、中道政治の原理を読み解くためのものとして捉えることができる。

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