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内沼晋太郎 日記を書く意味、読む愉悦――専門店を開いて気付いたこと

内沼晋太郎(NUMABOOKS代表)

日記のリトルプレスからプロの書き手に

「月日」を開いたもう一つの理由は、日記は売りやすい、ということです。

 きっかけは、よく通っている文学フリマ(出品者が自らの作品を手売りする展示即売会)で、自分が日記本ばかり買っているのにふと気づいたこと。なぜか小説よりも日記のほうが目に留まるのです。僕が日記本を好きだからかと思いましたが、よく考えてみると、それだけではなかった。

 名も知らない未知の書き手による小説作品を購入するのは、ハードルの高い行為です。一方、特定の職業の人や、特別な経験をした人の日記に関心を持つとき、書き手の名前はあまり影響していない。つまり、無名の書き手による日記のリトルプレス(個人や小規模の団体が少部数で制作する冊子、ZINE[ジン]とも)をたくさん仕入れれば、売れるんじゃないか、と思ったのです。

 その目論見は当たっていました。「月日」の売り上げで圧倒的に多いのは、商業流通に乗っていないリトルプレスの日記です。他で売っていない、ここでしか買えないものを求めてくる人が多いし、ふらっと立ち寄った人も、有名ではない著者の日記を買っていきます。

 もちろんその中でも、売れ行きには差があります。最も売れるのは、SNSで多少知られている人や、すでに少し有名な人の、他の書店では売っていない日記ですね。

売れ筋となっているリトルプレスの日記コーナー

 そうでなくても、テーマが独特だったり、書き手としておもしろい人は、少しずつ売れていきます。「月日」では年に2回、日記だけのマーケット「日記祭」を開催しているのですが、そこに出店していた人の日記が編集者の目に留まって商業出版物として刊行され、その後、本格的に作家活動を始めた、というケースがすでにいくつか出ています。写真家で文筆家の植本一子さんは、自費出版の冊子がきっかけで商業出版への道が開け、今では大手出版社からも著書を出す人気の書き手になりましたが、今でも自らの日記をZINEにして売っていますし、「月日」でもよく売れています。第二、第三の植本さんが生まれる場になったらおもしろいなと思っています。

 日記本といってもいろいろで、深沢七郎の有名なエッセイ集『言わなければよかったのに日記』に代表されるように、タイトルに「日記」と付いていても、日記らしくない本もたくさんあるんですよね。そこで「月日」では、「日付が入っている」という基準をベースに選書することにしました。日付がなくても内容的に明らかに日記であるものは仕入れるなど融通をきかせつつ、商業出版から自費出版まで幅広く揃えています。

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