新年からつけ始める人の多い日記だが、その専門店を東京で開いたのが、ブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんだ。店を立ち上げた背景や売れ筋の作品、日記の魅力などを聞いた。
(『中央公論』2024年1月号より)
(『中央公論』2024年1月号より)
- 日々の営みを見つめる行為
- 日記のリトルプレスからプロの書き手に
- コロナがブームを後押し
- どこまで書くか、誰になら読まれていいか
日々の営みを見つめる行為
東京・下北沢の商業エリアBONUS TRACKで日記専門店「日記屋 月日(つきひ)」を開いて3年になります。僕自身、日記を読むのが好きで、雑誌の記事で紹介したり、自身の出版社NUMABOOKSで刊行したりと、日記本とのかかわりは以前からありましたが、専門店を出す考えはなかった。ですがBONUS TRACK全体の運営にもかかわることになったとき、コーヒースタンドと一緒なら店として成り立つのではないかと閃いたんです。
コーヒースタンドが併設された「日記屋 月日」の外観
日記とは、一人の人の日々の営みが淡々と綴られる文学です。コスパの時代、経済的な合理性を追い求めることだけが人生のようになっている世の中で、かえって日記を必要とする人は増えていくのではないか、と常々思っていました。
一日の終わりに、自分がその日どんな経験をして、何を感じたかを書くというのは、つまらないと思っていた毎日にも、豊かさがあると気づくきっかけになります。また、そうして書かれた他人の日記に触れると、こんなふうに感じながら生きている人がいるんだと、どこか励まされる気持ちになる。これからの後退社会を生きていく僕らにとって、日々の営みを見つめる行為は必要だ、もっと日記を付けたり読んだりする人が増えればいいのに、と思い始めていたタイミングでもあったのです。