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内沼晋太郎 日記を書く意味、読む愉悦――専門店を開いて気付いたこと

内沼晋太郎(NUMABOOKS代表)

コロナがブームを後押し

 店のオープンを決めたとき、まさか直後に新型コロナのパンデミックが起きるとは予想もしていませんでしたが、結果的にはコロナによって日記への注目はさらに高まることになりました。需要を作り出そうとしていたら、向こうから自然にやってきた、という感じです。

 戦争や伝染病の流行など世の中が大きく変化する危機下では、人々の感受性も細やかになり、起きたことを記録しておこうという意識が働きます。すでに出版されている日記本にもそうした状況で書かれたものが多く、コロナ下で日記を付け始める人や自身の日記を本にする人が増えたのも自然なことだったと思います。そうした機運の中で、偶然にも日記専門店を開店したばかりだった僕らは、日記ブームの一翼を担う存在として、注目されることになりました。

 非日常というのは、何も戦争やパンデミックに限りません。親を看取ったときや犯罪に巻き込まれたときなど、その人にとっての非日常的な経験を綴った日記も多く流通しています。ただ、僕らがそうした非日常下で書かれた日記ばかりを重視しているかと言うと、そうではない。

 小学生の頃、夏休みの絵日記の宿題で、何か特別な体験を書かなくてはと焦ったことのある方は多いかもしれませんが、特別じゃなくてもいいと思うんです。むしろ何もなかった一日をどう描くかのほうがずっとおもしろいし、普通の日常を描くときにこそ、その人のものの見方、書き方が見えてくる。僕らはむしろ、そういうおもしろさに注目したいと思っています。

「月日」では、参加者たちが一日同じようにまち歩きをし、戻ってきて日記にしたため、みんなで見せ合うというワークショップを行っています。当たり前ですが、同じ経験をしても、それぞれ見ているもの、考えること、思い出すことが違うし、書き方も千差万別ですごくおもしろいのです。

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