「人への投資」に総務ができること
――総務部門における最大の課題は。
「人材確保」だと思います。人口減少社会である日本では、今後ますます労働力が不足するでしょう。人材確保は総務としても取り組むべき最重要課題です。人材確保には三つの段階があります。まずは社員になってもらえるかどうか。採用した後、定着してくれるかどうか。さらには実際に活躍してくれるかどうか。
コロナ禍を経て働き方が多様化した結果、働く場も複数の選択肢を提供する必要が出てきました。在宅勤務が可能だとか、サードプレイスを用意するとか、受け皿をいくつも揃えていなければ、多様な人材の確保は難しい。「この会社で働きたい」と思ってもらうためにも、時代の要請に応じた職場環境を整備することが重要です。
だから就職先として選ばれる上で、総務担当者の役割は非常に大きい。その意味で、現在の人材採用は人事の仕事である以上に、むしろ総務の仕事であるのかもしれません。
そしてオフィス環境の居心地の良さは、入ってきた社員を定着させるためにも重要です。ただ、社員が主観的に満足しているだけでは、会社の事業業績は上がりません。定着した社員が企業活動にいかに参画するかが重要になってくる。会社のビジョンや方向性を正しく理解し、納得した上で、主体的に取り組む気持ちを保ち続けられるかどうか。
人事部門でも社員のエンゲージメントを高めようと、リスキリングやリカレントといった教育投資を行いますが、どんなに質の高い教育を施されて能力が高まっても、実際に成果を出す場である職場環境が悪ければ、力を発揮できません。不毛の大地によい種を蒔いても、なかなか実はならない。生産性を高めるには、やはり働く場の改善が重要なのです。
人への投資は人事の仕事に見えて、実際には「場」が大きく影響してきます。経営者がテクノロジーツールの導入を検討するのは、そのためです。いま総務担当者が注力すべきは、場を磨き、事業に資するツールをうまく導入していくことだと思います。
(続きは『中央公論』2024年8月号で)
構成:髙松夕佳
1965年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務を、株式会社魚力で総務課長を経験。『月刊総務』編集長を経て、株式会社月刊総務代表取締役社長。著書に『マンガでやさしくわかる総務の仕事』『経営を強くする戦略総務』など。