政治・経済
国際
社会
科学
歴史
文化
ライフ
連載
中公新書
新書ラクレ
新書大賞

米村でんじろう「苦学生から科学の伝道師へ」

米村でんじろう(サイエンスプロデューサー)

裕福でない家、貧しかった田舎

 私は房総半島山間部の加茂村(現・千葉県市原市)で育ちました。

生活が楽だったわけでは決してないですが、貧しさを僻(ひが)むことも、貧しさに対してコンプレックスを持つこともほとんどありません。最近は食事もとれない子供がいると聞きますが、地域でお互いに助け合っていたので、そうした格差はありませんでした。

 また、私の親は何かにつけて呑気で、大雑把。物事をあまり気にしないし、自分の子供に対しても期待していない。職業は何でも良いので、世間に迷惑を掛けずに食べていければいい。一角(ひとかど)の人になれとか、大学を出なければ駄目といった考えもありません。

 できるだけ早く働くのが当たり前でしたから、中卒で就職する人も多かった。

 しかし、私が成長するにつれて周囲の進学熱が高まり、「高校くらいは出ておいたほうがいい」という時代になった。私はその流れのままに地元の高校に進みました。入学した頃は高卒で就職する人も少なくなかったですが、卒業する頃になると、かなりの人が大学に進学するようになっていました。

 そこで「大学に進学したい」と言うと、母も「行けるのなら行けば」という感じになりました。母は、兄たちと歳が離れていた末っ子の私を一番可愛がっていたので、甘かった。受験に失敗しても、「ああそう、また来年」と、あっさり受け止めてもらえました。本心でどう思っていたかはわかりませんが、当時の私には、そう言ってくれたことが救いでした。

1  2  3  4