本稿は、いわゆるネット右翼的な陰謀論の受容性と、ソーシャルメディアをはじめとする各種のWEBサービス利用の関連について検討する。昨今、特にインターネット上におけるデマやフェイクニュースなどの意図的な政治的誤情報(political misinformation)の蔓延がしばしば問題視されている。とりわけ、二〇二一年一月の米国連邦議会議事堂襲撃事件では、襲撃した者の多くが「Qアノン」と呼ばれる米国内の陰謀論サイト利用者であったことが各メディアで報じられ、国内外に大きなインパクトを与えた。
もっとも、こうした政治にまつわるデマや陰謀論の蔓延は、必ずしも海外に限った話ではない。日本においても、政治にまつわる陰謀論やデマは(特にWEB上で)散見される。たとえば、「世界的な巨大資本が日本の政治の中枢を支配している」といった都市伝説的な陰謀論は以前からよく見られる。あるいは、芸能人の麻薬摘発などが発覚するたびに、「政府は、何らかのスキャンダル隠しのために警察を動かして世論を煙に巻こうとしている」といった党派的な陰謀論がどこからともなくあらわれ、時に「トレンド入り」することもある。
ただし、この種の陰謀論は、特定の政治的意見を持つ人々の間で、いわば自己消費的に広まることがほとんどである。他方で、真に問題となる陰謀論とは、特定の人種や民族などの社会的属性に対する誹謗中傷を含むような場合である。近年では、特に在日朝鮮人や韓国(人)・中国(人)に対する「根も葉もないうわさ」を吹聴する、いわゆる「ネット右翼」による陰謀論がその典型例であろう。その発端の一つには、一〇年頃に台頭した「在日特権を許さない市民の会(在特会)」があげられる。在特会は、日本社会において在日朝鮮人は不当に「特権」を有していると考え[※1]、さらにそうした政治的・社会的構造は、日本の左派/リベラル派の政治勢力が下支えしていると主張する。当初は、ジャーナリストの安田浩一(二〇一二)などの反論もあって、こうした極右運動の言説はごく一部の人々の中だけにとどまると考えられてきた。しかしその後、こうした考え方は(ネット)世論の中で急速に広まり(樋口直人、二〇一四)、実際の政治レベルでも、一部でヘイトスピーチ規制が設けられる事態にまで発展した。
この種の言説を展開する人々がネット右翼と呼ばれることからもわかるように、極端な排外主義的陰謀論が蔓延した背景には、やはりインターネットの影響が大きくある。先行研究でも、ネット利用の頻度とネット右翼度は強く関連していることがたびたび指摘されている(高史明、二〇一五/辻大介、二〇一七)。確かに、インターネット上での排外主義的な書き込みは、未だ衰えることなく増え続けているように見えるし、「ネトウヨ」という概念が、ネットスラングから一般名詞化していることからも状況の悪化がうかがえる。
ただし、「インターネット上」と一口に言っても、その内実は極めて多種多様である。二〇〇〇年代中盤以降では、mixiやTwitterなどの文字中心であったが、昨今では、画像や動画、音声中心のInstagramやYouTube、Clubhouseなどが流行している。あるいは、スマホの普及に伴って、アプリなどを通じた「まとめサイト[※2]」の閲覧もごく一般的になっている。
以上を踏まえて本稿では、個別のWEBサービスの利用頻度が、いわゆるネット右翼的な陰謀論の受容性と、どのように/どの程度関連しているかについて、筆者が実施した全国アンケート調査の分析を通じて明らかにする。また本稿では、政治的な知識を持つことが、陰謀論受容の「防波堤」となりうるのかについても検討する。一般に、自らが陰謀論にひっかからないための重要な策の一つとして、一人ひとりが「正しい知識」を持っておくべきであるとされる。ただし、個人の潜在的な心理的傾向や、利用するWEBサービスの種類によって、政治的知識の獲得メカニズムは異なることも踏まえると(Tetsuro Kobayashi & Kazunori Inamasu、二〇一五/稲増一憲・三浦麻子、二〇一六)、知識を持つことで、むしろ陰謀論にふれる機会を増加させて、その種の言説を信用してしまう確率を高めてしまう可能性もある。こうした知見も踏まえて本稿では、ネット右翼的陰謀論が広く見られ、かつ多くのユーザーを抱える「Twitter」「まとめサイト」「Yahoo!ニュースのコメント(以下、ヤフコメ)」の三つのWEBサービスを取り上げて、それぞれの利用が陰謀論の受容性と結びついていく中で、政治的知識はそのストッパーとなりうるのかについて検証する。