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秦正樹 「正しい知識」が陰謀論を助長する

秦正樹(京都府立大学准教授)

ネット右翼的陰謀論の背景と実際

 前述のように、インターネット上の極右的/排外主義的な陰謀論はとどまることなく広まり続けている。ただし、このような陰謀論の蔓延は、必ずしも「陰謀論者が増加していること」を直接に意味しているわけではない。実際に、「ネット炎上」に関する研究では、ごく少数の人が何度も発言を繰り返すことで炎上を演出しているに過ぎないとの知見もある(田中辰雄・山口真一、二〇一六)。あるいは、ネット右翼のボリュームに関しては、大阪大学の辻大介(二〇一七)は全体の一・八%(程度)、東京大学の永吉希久子(二〇一九)でも一・五%(程度)と極めて少数であると指摘されている。とはいえ、今や老若男女が利用するWEBサービス上で、この種の陰謀論に繰り返し接触することで、ごく一般的な人々も「多くの人が言っている」と誤認して陰謀論者化し、今後、そのような意見を有する人々がますます増えていく可能性も十分にある。

 また、一九九〇年代以降のネット右派言説に関する丁寧な歴史的分析を行う、成蹊大学の伊藤昌亮は、この点を考える上で重要な視座を与える。伊藤(二〇一九)では、従来、外国人全体に向けられていた「反日」という語が、二〇〇〇年代頃からネット右派運動の中で「嫌韓」と結びつき、二〇一〇年代以降、リベラル市民主義への敵対心も加わり、反日・嫌韓・反リベラル(左派)がネット右派を特徴づけるワンセットの言説になったとされる。

 そこで以下では、筆者が一九年三月に楽天インサイトのパネルモニター一五〇七名を対象に実施したWEB調査[※3]を用いて、とりわけ「反日」などの単語に見られるネット右翼的言説を特徴づける陰謀論の受容性に注目してデータを確認してみたい。また伊藤(二〇一九)の知見も踏まえて、本調査では、反日・嫌韓・反リベラルを軸とした「日本の左派系団体の多くは、韓国に操られている」「左派政党の議員は、韓国のために政治をしているのではないかと感じる」「マスコミはどこも韓国寄りなので信用できない」「日本には反日的な政治家や政党が多いと感じる」の四つの質問について検討する[※4]。

 図1は、四問の回答の分布を示している。これらの結果を見ると、多少のばらつきはあるものの、どの質問もおよそ二割の人が「同意」または「やや同意」と回答している。先行研究のネット右翼の操作的定義とは異なるため、その割合を直接比較することは適切ではないが、しかしそれでも本調査の二割(程度)という値は、相当に「多い」という印象も受ける。これは、「ネット右翼」そのものは少数であったとしても、ネット右翼的陰謀論を(腹の中では)受容している人が存外多いことを示唆している。言い換えれば、ネット右翼的陰謀論を受容する素地を有する、いわば「ネット右翼予備軍」まで含めれば、世論の二割程度にものぼる可能性があるといえる。

図1.jpg

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