スポーツを国家戦略へ
スポーツをめぐる環境の変化は、スポーツ施設整備以外にもある。
1970年頃からのフィットネスクラブの設立・台頭や93年のプロサッカーリーグ(Jリーグ)の開幕といった民間スポーツ産業の伸長に加え、総合型地域スポーツクラブの設立などスポーツを活かした地域活性化事案が各地で活発化した。「スポーツ振興法」制定当時から、スポーツを取り巻く環境が大きく変化してきたことを踏まえ、文部科学省は2010年8月に「スポーツ振興法」に代わり、今後のわが国のスポーツ政策の基本的方向性を示す「スポーツ立国戦略」を策定した。
新たなスポーツ文化の確立を見据えた本戦略は、「スポーツ立国戦略の目指す姿」を実現するため、「人(する人、観る人、支える(育てる)人)の重視」と「連携・協働の推進」を基本的な考え方としている。
そして本戦略の策定を受けて、2011年8月に「スポーツ振興法」に代わり、国家戦略としてスポーツに関する施策を総合的かつ計画的に推進するための法律「スポーツ基本法」が施行された。
この法律では、前文に「スポーツを心身の健康保持増進に重要な役割を果たすもの」と「スポーツ振興法」時代から変わらないスポーツの意義を明記しているほか、第12条では「国及び地方公共団体は、国民が身近にスポーツに親しむことができるようにするとともに、競技水準の向上を図ることができるよう、スポーツ施設(スポーツの設備を含む。以下同じ。)」の整備」が定められており、引き続き行政主導によるスポーツ施設整備を求められている。
さらに、第2条第3項で「スポーツは、人々がその居住する地域において、主体的に協働することにより身近に親しむことができるようにするとともに、これを通じて、当該地域における全ての世代の人々の交流が促進され、かつ、地域間の交流の基盤が形成されるものとなるよう推進されなければならない」とスポーツを通じた地域との交流促進が記載された。
また、第18条では「国は、スポーツの普及又は競技水準の向上を図る上でスポーツ産業の事業者が果たす役割の重要性に鑑み、スポーツ団体とスポーツ産業の事業者との連携及び協力の促進その他の必要な施策を講ずるものとする」とスポーツ産業の事業者との連携等も定めるに至っている。
戦後1961年に制定された「スポーツ振興法」は官主導によるスポーツの啓蒙とそのための環境整備のための法律であったが、「スポーツ基本法」ではスポーツをより一層国家戦略に活かすための法律として制定されたのである。これはスポーツ分野への民間活力参入といった新しい環境の変化に対応し、健康、地域、経済といった各種国民生活へのスポーツの果たす役割の多様性・重要性に鑑み、スポーツによる様々な取り組みを担保するものであった。
そして、2013年9月の東京での2020年オリンピック・パラリンピック開催決定を経て、「スポーツ基本法附則におけるスポーツ庁設置に関する規定」を根拠として、2015年10月にスポーツ庁が創設されるのである。