経済政策を三つに分ける
そもそも経済政策は、
・ミクロ経済政策(供給側の政策)
・マクロ経済政策(需要側の政策)
・再分配政策
に分けて考えられる。おおざっぱに言えば、ミクロ経済政策は規制緩和・市場の失敗への対処であり、マクロ経済政策は財政・金融政策、つまり景気刺激策である。成長戦略は、マクロ経済政策とミクロ経済政策の両方にまたがっている。
多くの企業経営者は、ミクロ経済政策の一部に精通しているに過ぎない。マクロ経済政策に明るいわけではなく、また再分配政策については、富裕層に有利な主張を行いがちである。にもかかわらず、安倍政権も菅政権も、経済政策を検討する際に、企業経営者の主張に耳を傾け過ぎるきらいがあった。
その結果、岸田首相自身が新自由主義的と感じた経済状況がもたらされた、あるいは維持されたのではなかったか? にもかかわらず、岸田政権は財界からの批判に応じるかのように分配重視の姿勢を弱めていった。10月10日には早くもテレビ番組で、金融課税強化については当面検討しないと述べて、この政策をひとまずひっこめた形になっている。
金融課税強化の背景には、年間所得が1億円を超える辺りから所得税負担率が低下する「1億円の壁」の問題がある。所得税の最高税率が(住民税込みで)55%であるのに対し、金融所得の税率は一律20%だ。年間所得1億円超の超富裕層が相対的に多くの金融所得を得るために、1億円の壁のような問題が発生する。
金融所得の税率を引き上げても大した税収が得られないのは確かだが、金持ちほど所得税負担率が低下するという不公平は正すべきだろう。それには金融所得の税率を引き上げたり、金融所得の源泉分離課税を廃止したりする必要がある。あるいは、さらに望ましいのは包括的な資産税だ。
とはいえ、岸田氏が総裁に選出されてから、日経平均が8営業日連続でトータル2000円以上下落したのは、金融所得課税の強化を打ち出したことが主要因ではないかという指摘が多々なされてきたように、政策によって株価が大暴落すれば、実体経済に影響を与えて危険だから、導入のタイミングには気を付けるべきだ。コロナが完全に収束したわけではない、経済の先行き不透明なこの時期に実施すべきではないだろう。しかし、くだんの不公平を未来永劫放置しておいて良いわけではない。
したがって、11月16日には金融所得課税の強化を22年以降議論の俎上に載せる方針であることが明らかになったが、それは望ましい方針であると言えるだろう。