(『中央公論』2022年10月号より抜粋)
- 7月の参院選を振り返って
- 保守と保守主義、リベラル
- 若者は保守化しているのか
7月の参院選を振り返って
宇野 7月の参院選は与党の圧勝でしたが、比例での得票率は選挙ごとに少しずつ減っていますから、与党が圧倒的に支持されて勝ったというよりは、むしろ野党の自滅と言うべきでしょう。特に立憲民主党は議席数では野党第一党の座を守ったとはいえ、比例の得票数では日本維新の会に抜かれました。
私には、この参院選は、一つの選挙だったはずが、実際には二つのゲームが行われていたかのように見えてなりません。自民党のなかでは、岸田文雄総理か、安倍晋三元総理か。この路線の違いは重要な論点のはずですが、選挙では選べません。一方の野党は自民党に勝てないことは確定していて、そのなかでどこが第一党になるかを争っていたと言えます。
中北 野党は十分に選挙協力ができず、32の1人区で4勝と惨敗しました。でも、共産党や市民連合(安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合)の「だから共闘が必要」という主張は単純すぎます。
去年の衆院選では、立憲・共産両党が「限定的な閣外からの協力」で合意しましたが、立憲民主党の総括によると、「政権は一緒にしないという合意」にすぎませんでした。しかも両党とも議席を減らし、この枠組みでの政権交代は無理ということが明白になった。維新が躍進したことを含め、2015年の安保法制反対運動に始まる野党間の選挙協力は、その時点で頓挫していたのです。
他方、自民党は菅義偉総理が辞めたあとの昨年の総裁選で、菅さんのライバルの岸田さんが勝ったことで擬似政権交代が起き、55年体制のような党内多元主義を取り戻しました。さらに、連立を組む公明党、政策提案型の国民民主党、維新と、同心円状の「中華世界秩序」的な政党システムを作り上げている。公明党や民社党を抱き込んだ55年体制後期の部分的な復活と言えます。
こうしたなかで、野党再生の芽は見えません。再編は必要でも、再編するエネルギーすらないというのが現状ではないでしょうか。