「話が通じる政治家」だった
──小池さんを登用した安倍さんでしたが、『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)では、小池さんを「ジョーカー」だと述べています。「ある種のゲームでは、グンと強い力を持つ」「彼女は、自分がジョーカーだということを認識していると思います」と。安倍さんには、「手強い相手」という認識があったわけですが、この評価については、どうお感じになりますか。
私について言及していただいたことは、とても光栄です。ただ、トランプのカードにたとえるのなら、自分自身では「ハートのエース」だと思っています。(笑)
私は多くの永田町、自民党の議員のみなさんが考えないようなことを発想して、提案するんですね。クールビズ以外の例を挙げるならば、世界に比べてあまりにも遅れている女性参画の問題について、他の女性議員の方とも協力しながら議員連盟をつくるなどして、先頭に立って運動してきました。北極圏安全保障議員連盟や無電柱化推進議員連盟などを自分でつくって、仲間を集めて立法や政策の提案をするのは得意とするところです。最近では、東京都として今年の年初に、所得制限なく18歳までシームレスに、1人あたり月5000円程度支援するという少子化対策を打ち出しました。財源も確保しています。そういう従来の永田町の常識では収まらないところに、「手強さ」を感じられたのではないでしょうか。
──安倍さんの方には、ライバルという意識があって、少し警戒もしておられたようです。ご自身では、そうお感じになることはありませんでしたか。
はっきりライバル視されていると感じるようなことはありませんでしたが、お互いが異質な存在だったのは確かだと思います。安倍さんは、政治家の家系で英才教育を受けた政界のプリンス。片や私は、そうしたバックボーンも全くなく、「こうあればいいな」という政策を無手勝流(むてかつりゅう)に進めてきた人間ですから。ライバルうんぬんというのは、私が都知事になってからのことかもしれません。一緒に飲んだりして、ざっくばらんに話をしたり、政策などを直言したりするようなこともけっこうある間柄だったんですよ。
安倍さんが自民党総裁に返り咲いた2012年の総裁選の時には、石破茂さんや町村信孝さんも含めて、全候補者に女性参画についての嘆願書を渡しました。意思決定の場にもっと女性を登用してほしいとか、子育てしながら仕事ができる社会を実現すべきだとか、要求やプランを具体的に項目にして。安倍さんは「分かりました」と受け取ってくださって、のちの組閣(第2次安倍改造内閣)では小渕優子さんや松島みどりさんなど、多くの女性閣僚を起用されました。さっそく要請を受け入れてくれたんだなと感じて、嬉しかったですね。
総理になった安倍さんには、女性参画以外にも、いろいろと提案させていただきました。永田町の壁もあって全てが通るというわけにはいきませんでしたが、安倍さんからは「変えるべきものは変えていこう」という思いが十分伝わってきました。私からすれば、安倍晋三は「話が通じる政治家」でした。
(続きは『中央公論』2023年7月号で)
構成:南山武志 撮影:米田育広
1952年兵庫県生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。アラビア語の通訳者やニュースキャスターとして活躍したのち、政界へ。92年より参議院議員、93年からは衆議院議員。環境大臣、防衛大臣、自民党総務会長などを歴任し、2016年、東京都知事に当選。現在2期目。