議員個人ではなくブランド支持
ただ、こうした議員個人の資質や志向、あるいは不祥事などは今のところ、維新の政党支持率とはほとんど関係がない。
たとえば『朝日新聞』が5月27、28日に行った全国世論調査の「今、衆議院選挙の投票をするとしたら、比例区で入れる政党は」という問いで、日本維新の会(17%)は自民党(36%)に次ぐ2位となり、初めて立憲民主党(10%)を上回った。維新は全年代で立憲を上回り、30~50歳代では2倍以上の差を付けた。
また、野党第一党になってほしいのは立憲か維新かという質問では、維新が44%、立憲が32%。近畿に限れば維新は60%と、立憲の23%を大きく引き離した。
調査時期は、先述した笹川府議のパワハラ・セクハラ問題や梅村議員の不適切発言が連日報道されているさなかである。それでも維新支持は確実に伸びていたのだ。
世論調査だけでなく、同じ時期に行われた選挙もそうだった。
6月4日に投開票された大阪府の堺市長選挙。非維新各党の支持が比較的厚いとされてきた政令指定都市で、維新現職の永藤英機(ながふじひでき)市長が危なげなく2期目の当選を果たした。
前回と同じく、無所属で非維新勢力の結集をめざした野村友昭・元自民市議との争いだった。投票率は前回より下がったが、永藤は1400票余り上積みして約14万票を獲得。一方の野村は3万5000票以上減らし、約8万8000票にとどまった。「維新の分厚い岩盤支持層ができているのを痛感した。現職への批判や検証だけでは到底ひっくり返せなかった」と完敗を認め、維新の強さをこう分析する。
「4月の堺市議選を見ても感じたことですが、維新の支持者は候補者個人を見て投票しているわけじゃない。維新というブランドに対する信頼であり、支持なんだと。
野球にたとえるなら、大阪では阪神タイガースのファンが圧倒的に多いでしょう。チームに成績の悪い選手がいても、あるいは何か不祥事を起こす選手が出ても、その選手を交代させるかクビにすればよいだけで、阪神への支持はまったく揺るがない。それと同じように、維新は強固なブランド力を確立している」
では、これに対抗するにはどういう戦略や方向性があるか。
「正直、今は何も見えませんね。ただ相手の支持層を切り崩すのは難しく、自分たちの支持を地道に積み上げていくしかないと思う。4年か8年か16年か、長い時間がかかるでしょうが......」
大阪府内43市町村のうち、維新の首長は堺を含めて20人に上る。大阪における維新はかつての自民に完全に取って代わる安定与党となっており、よほどの失策でもない限り、「政権交代」へのモチベーションが有権者に生まれそうもない。
それに加え、維新は選挙に際して圧倒的な動員力と運動量を発揮する。堺市長選では、笹川府議の問題が逆風になることを懸念し、挙党態勢で臨んだと読売新聞オンラインが投開票翌日に伝えている。
〈府内の議員や首長計約300人を市内7区にそれぞれ27~52人配置。投開票日までに1人計12時間以上の駅立ちや住宅地でのビラ配りなどの応援ノルマを課した。
加えて、吉村洋文代表(大阪府知事)や地元の日本維新の馬場伸幸代表ら党首級がマイクを握った〉
維新の看板と運動方針の下に議員たちが結集し、トップや党本部の号令一下で動く。維新の組織的特徴であり、特に選挙における強さだと言われてきた光景である。
(続きは『中央公論』2023年8月号で)
1970年大阪府生まれ。神戸新聞記者を経てフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に『誰が「橋下徹」をつくったか』『軌道』(講談社本田靖春ノンフィクション賞)、『地方メディアの逆襲』など。