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三村明夫×増田寛也 今が未来を選択できるラストチャンス

三村明夫(日本製鉄株式会社名誉会長)×増田寛也(日本郵政株式会社社長)
三村明夫氏(左)、増田寛也氏(右)
 識者による「人口戦略会議」が緊急提言「人口ビジョン2100」をまとめた。会議の議長を務める三村氏と、副議長で10年前に消滅可能性のある都市の全リストを公表して話題を集めた増田氏に、緊急提言の理由と狙いを聞いた。
(『中央公論』2024年2月号より抜粋)

危機意識の共有

三村 人口問題については2014年、経済財政諮問会議の下に設置されて私が会長を務めた「『選択する未来』委員会」で政策提言を行いました。しかしあれから10年が経っても、物事はほとんど進んでいない。危機意識の共有が十分にできなかった。人口は1年放っておくだけでも目に見えて減っていきます。これからの10年で日本の総人口は600万人以上も減ってしまう。早く始めなければ、取り返しがつかなくなる。できる限り早く危機意識をみんなで共有し、国民的な運動を始めようじゃないかということで、28名が個人の立場で集まりました。

 この会議が民間であるということ自体に意味があります。

 ポイントは三つあります。一つは、人口問題をこのまま放置すると、日本がいかに大変な事態に陥るかという危機意識を国全体で共有する必要がありますが、これは相当に厳しい話です。政府がこうした話をするのはなかなか難しいので、民間が先導しようというわけです。

 二つ目は、従来の政府の対応が個別的、対症療法的であり、網羅的でなかったことに対する問題提起です。岸田文雄政権になってようやく「異次元の少子化対策」ということで、これまで積み残した課題を一気に片付けようという方針が打ち出されたものの、これまで何十年もの間、政府は人口問題に全身全霊で立ち向かおうとしてこなかった。民間の立場だからこそ、こうした率直な問題提起ができるのです。

 三つ目は、人口問題の解決に伴う痛みは国民全体で分配する必要があるということです。経済が成長しているときは、成長の果実を国民全体に分配することは可能です。しかし経済が停滞し始めると、さまざまな課題が噴出し、その解決にはさらなる財源のための負担が必要になる。そうした痛みの分配は、選挙で選ばれる政治家がもっとも不得意なこと。だから政府は問題の指摘はしても、解決法を示すことはできなかった。そこで、このまま放置すれば大変なことになると、民間から声を上げることが重要となります。


増田 私も、今回がラストチャンスだと思っています。10年前の「『選択する未来』委員会」では、50年後に人口1億人を維持しようと提言し、超長期的には9000万人程度で人口を安定させていく試算をしていました。それが今回の試算では、目標となるのは8000万人。成果を見ないまま10年が経ち、目指すべき人口は1000万人も減ったわけです。ここで好転させなければとめどなく落ち込んでいき、次世代、次次世代に背負い切れない負の遺産を残してしまうことになる。ラストチャンスとの危機感を持って取り組もうというのが、三村議長のもとに集まった我々の共通認識です。

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