ビジョンでは新たな考え方を提言
三村 「人口ビジョン2100」では、いくつかの新たな考え方を提言しています。
一つは、「定常人口」という概念です。人口が減ること自体は今となっては避けようがない。問題は、最低ラインとして、どこで人口を定常化させるかです。今回我々は、2100年に人口8000万人と設定しました。この数字を達成するには、出生率が40年ごろに1・6程度、50年ごろに1・8程度、そして60年までに2・07に到達する必要があります。現在の出生率が1・26であることを考えると、相当な努力を要する高い目標ですが、決して不可能ではないと考えています。
計算上は、10年前に試算した人口9000万人という目標の達成も可能です。しかしその場合、40年までに出生率2・07となることが必要となります。そうすると、この先16年間で出生率が一気に上がることが必要となり、実行可能性は極めて薄いと言わざるを得ません。それに比べると8000万人はより現実的です。最初の20年ぐらいは非常に厳しいでしょうが、出生率が1・6とか1・8になると人口減少率は相当落ち着いてきます。
二つ目は、「共同養育社会」という考え方です。若い人たちが安心して結婚、出産ができるような、子どもを育てる幸せを噛み締められるような社会でなければ、人口減少は止まりません。現在の日本では、子どもを持つことは人生におけるリスク要因だと受け取られています。経済的にも負担だし、女性の場合は、出産によってせっかく入った会社を辞めたり働き方を変えたりしなくてはならない。育休明けの職場復帰にも壁がある。一方で、社会全体にとっては子どもを持たないという選択をする人が増えることは大きなリスクとなる。両者のミスマッチを解消するのが、社会全体で子どもを育てるという共同養育社会という考え方です。
三つ目は、将来世代のことを考え、社会や地域を継承していく努力を尽くすのは、今を生きる現在世代の責任であることを強く打ち出したことです。現在世代は将来世代と隔絶して存在するのではなく、年金などの社会保障を通じて支援を受けていますので、両者は深く結びついています。また、人口の増減による利益も不利益も、結局は個人や企業が受けるのですから、これは国民みんなの問題です。一方、やはり世の中の向かうべき方向を指し示すのは、政府の責任である。そうした考え方も提示しています。
(2023年12月12日収録)
(続きは『中央公論』2024年2月号で)
構成:高松夕佳
1940年群馬県生まれ。東京大学経済学部卒業。63年富士製鐵(現・日本製鉄)入社。2018年より同社名誉会長。中央教育審議会会長、経済財政諮問会議の民間議員などの要職を歴任した。
◆増田寛也 〔ますだひろや〕
1951年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。77年建設省(現・国土交通省)入省。岩手県知事、総務大臣などを歴任し、2020年より現職。編著書に『地方消滅』(新書大賞2015)など。