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治部れんげ 子ども・女性支援政策から考える"失われた10年"

治部れんげ(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)

子どもを持つのは国のため?

 まず、少子化と政策・発信の三つの課題を解説し、続いて処方箋を述べる。

 第一の問題は、政策形成ロジックの歪みである。行政、政治関係者と子育て支援や女性支援について議論していると、そこに「少子化対策」や「人口増への期待」が混じることに気づく。

 純粋に子育て支援や女性支援を打ち出せばいいのに、と述べると「保守層や高齢男性に反発されてしまう」と言われる。こうした発想が具体化したのが、2015年に安倍政権が打ち出した「一億総活躍社会」だろう。2016年の「厚生労働白書」は「一億総活躍の最も根源的な課題は、人口減少問題に立ち向かうこと」と明示した上で「希望出生率1.8」と「夢をつむぐ子育て支援」について解説している。ここでは年金や社会保障制度を支えるために全国民が働く(=活躍する)必要があることと、子どもを持つことがつながっている。

「世代間の支え合い」に基づく社会保障制度を維持するためには将来の納税者、すなわち子どもを増やす必要があることは、単純な算数の問題として理解できる。現役子育て層としては、子育て支援は物理的にはありがたい。ただ、常に「少子化対策」が前面に出てくるのは違和感もある。私たちが子育てをしているのは幸せに暮らしたいから、もしくは子どもが生まれたから、という現実的かつ個人的な動機からである。富国強兵の時代ならともかく、個人が生き方を選ぶことができる現代に、国のために子どもを持とうとする人は少ないだろう。

 第二の問題は、中央政府が声高に述べる「子育て支援」がこれから子どもを持つ世代に、ほとんど響いていないことである。希望する数の子どもを持つのが難しい理由は、既に多くの報道がある通り、経済不安だ。夫婦の予定子ども数が理想子ども数を下回る主な理由は、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」(総数56.3%)である(「第15回出生動向基本調査」2015年)。特に妻の年齢が35歳未満の若い世代では経済不安は顕著だ。

 必要なのは、夫婦が子育てしながら仕事を続けられる環境の整備だろう。2015年に成立した「女性活躍推進法」は、こうした目的に沿って作られたものだ。同法第二条二項は次のように謳う。

「(前略)家族を構成する男女が、男女の別を問わず、相互の協力と社会の支援の下に、育児、介護その他の家庭生活における活動について家族の一員としての役割を円滑に果たしつつ職業生活における活動を行うために必要な環境の整備等により、男女の職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立が可能となることを旨として、行われなければならない」

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