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三田会、開成高校、医学部の抗争...学閥の現在と功罪

田中幾太郎(ジャーナリスト)
写真提供:photo AC
(『中央公論』2024年5月号より抜粋)

最強の同窓組織「三田会」

 昨年夏の甲子園で、慶應義塾高校が107年ぶりに優勝を果たした。決勝戦の5回表、慶應2死二、三塁の場面だった。丸田湊斗(みなと)選手の左中間の打球を追った仙台育英の中堅手と左翼手が交錯。落球し、慶應の勝利を決定づける2点が入った。甲子園を地響きのように揺るがす慶應の大声援の中で選手同士の声がかき消され、エラーを誘発した。関西合同三田会が中心になって動員をかけ、応援でも相手を圧倒したのだった。「相手の選手には気の毒でしたが、三田会の結束力の賜物」と同関係者は感慨深げに語る。


 三田会は小学校(幼稚舎)から大学までのOB・OG40万人近くを会員とする慶應の同窓会。卒業年度、地域、勤務先・職種、サークル、ゼミなどで組織され、その数は880団体を超え、「最強の同窓会」と称される。まさに、慶應閥の屋台骨である。


 注目されるのは企業内三田会。慶應の強みは数多くの有力企業に三田会を組織し、深く根を下ろしていることだ。企業内三田会の会員数のトップ10は東京海上日動火災保険を筆頭に、日立製作所、富士通、三菱商事、損害保険ジャパン、野村ホールディングス、トヨタ自動車、三菱UFJ銀行、三井物産、三菱UFJ信託銀行と続く。三菱UFJ信託銀行を除く9社の会員数はいずれも4桁の大台に乗っている。


 この10社のうちトヨタ自動車の豊田章男会長、野村ホールディングスの奥田健太郎社長、三井物産の堀健一社長、三菱UFJ信託銀行の長島巌(いわお)社長と、4社の現在のトップは慶應大出身だ。「創業家の豊田章男さんはともかく、三田会の力が大きく寄与していると思う」と話すのは、その中核組織「慶應連合三田会」の役員。出世を企業内の同窓たちが後押しするというのだ。


「同程度の能力を持つ2人が競っている場合、塾員(慶應大卒業生)のほうが選ばれる状況が生まれやすい」


 かつてメーカーの幹部だったこの連合三田会役員は、「上司に塾員がたくさんいるおかげで自分も引き上げられ、実力以上に昇進できた」と振り返る。三井物産OBも「社内に勢力があれば、さまざまな面で有利に働く」と証言する。メリットとして情報が集まりやすい点を挙げる。


「三田会で会う機会も多く、社内の情報がよく入ってくる。たとえば、あの上司はどういうキャラクターだといった話も伝わってくるので、うまく立ち回ることができる。出世にプラスになっている気がする」


 実際、有力企業を見ていくと、慶應出身の幹部は多い。昨年12月に発表された東京商工リサーチの調査によると、上場企業の社長の出身大学は慶應が289人でトップ。早稲田230人、東大213人と続く。4位以下は日大105人、京大102人......と大きく減る。この10年、上位3校の顔ぶれはほぼ変わらず、慶應が不動のトップという状況が続いている。

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