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越 直美「自治体も企業も多様性なくして成長なし」

越 直美(三浦法律事務所弁護士)

今は「マイナスのパイ」を切る時代

 市長としての2期8年で保育園等54園(約3000人分)をつくりました。その結果、待機児童ゼロ、5歳以下の子どもを持ちながらフルタイムで働く女性は70%増加、さらに大津市の人口が増えました。


 実は、保育園を増やすのは難しくはありませんでした。なぜなら、それは市民が喜んでくれることだから。市民が喜ぶことは、議会の賛成が得られます。一番大変だったのは、保育園の予算を増やすために他の予算を削減することでした。


 日本では急激な人口減少が進んでいます。地方自治体の多くがそうですが、大津市も私が市長になる前から「人口減少に転じる」と言われ、財政は厳しい状況でした。


 その中で、在任中に132億円を削減しました。高齢者の鍼灸・マッサージや敬老祝金などの補助金をカットし、市長や職員の給与の削減、施設の統廃合も進めて捻出しました。その説得のために、職員とともに、怒鳴られながら、何度も現場に出向いて方針を説明しました。


 市民の皆さんも、財政が厳しいことはわかっていらっしゃいます。でも、自分が使っていた施設やサービスがなくなるのは困るという「総論賛成、各論反対」の方が多い。これは、何度も地元に行って、代替案を提示し、賛成は無理でも「仕方ない」と思ってもらえるまで対話し続けるしかありません。泥臭くやるしかないんです。


 今は、「マイナスのパイ」を切る時代です。人口が増えていた昭和の時代、自治体の役割は市民に「おいしいパイ」を切り分けることでした。どの地域に新しい道路や施設をつくるのかを決めるのが、首長や議会の仕事だったのです。しかし今の自治体の役割は、痛みを市民に割り振ること。どの地域の施設をなくすか、どの補助金をなくすかを決めなくてはなりません。


 決して楽しい仕事ではありません。しかし、人口が減る中では、避けては通れない仕事です。そうしなければ、将来世代に負担を先送りし、いずれ財政が破綻します。

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