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ポスター、選挙公報、政見放送......都知事選「ハック」で問われる日本の選挙

日野愛郎(早稲田大学政治経済学術院教授)

公開性、公平性の理念を体現する選挙公営制度

 上記の公開性、公平性の精神を体現したのが選挙公営制度である。公営ということは当然、税金によって支えられている制度である。選挙公営制度により補助されている選挙活動には様々なものがあるが、その中でも重要なのが選挙公報、選挙ポスター、政見放送の三つである。

 選挙公報は決められたスペースの中で自らの政策を掲げることができる、極めて重要な選挙活動の媒体である。都道府県や自治体ごとに発行の有無や配布方法は異なるが、近年では全戸配布されることが多い。

 候補者情報を一覧できるよう掲示する国はあるが、候補者が一定のスペースを自由に利用し自身の主張を伝え、その内容が全戸配布されるサービスは、管見の限り日本にしかない。多くの国では戸別訪問が許されているため、その一環でビラを候補者自身や陣営がポスティングしている。有権者全員にコンタクトするには相当な組織力やボランティアの力が必要となる。日本の選挙公報は、資金力や組織力がなくとも、有権者に自らの主義主張をあまねく届けられることを保証し、選挙の公開性、公平性を担保している。

 今回の都知事選で問題となったポスター掲示板であるが、これもどこの国にもあるものではなく、日本ほどたくさんの場所に掲示板が設置されている国はない。海外では、そもそも全候補者がポスターを貼りだせる掲示板がない国も多くある。そうした国ではポスターは道路標識に括りつけられたり、庭先に掲げられたりすることが多く、細かい規定が定められている場合もあるが、数量に上限がない国も少なくない。公営のポスター掲示場が設けられている国は大陸ヨーロッパ諸国に多く、オランダ、ベルギー、フランス、イタリアなどだが、日本ほどの数ではない。

 ポスター掲示板の数の多さは、日本の選挙公営制度の充実ぶりを示しているとも言えるが、公開性、公平性を担保するという崇高な理念とその費用対効果のバランスについては、今後慎重に議論する必要があるように思われる。今回の都知事選の場合、ポスター掲示板を設置する費用は1ヵ所9万円程度、全体で1万4000ヵ所以上(都民1000人に1つの割合)に設置されていたので、約12億6000万円の公費が投入されていることになる。ポスター掲示板の適正な数や掲示方法に関する改善点は後段の処方箋において論じるが、ここではなぜポスター掲示板が必要であるかを確認しておきたい。

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