サンダースの「見えない影響力」
「尻叩き」役のサンダースは、ハリスへの違和感を隠さない。イスラエルにも堂々と触れた。2016年の予備選終盤でヒラリーにTPP反対を約束させたサンダースらは、20年にはバイデンに気候変動対策の数値目標や政権人事での少数派配分などの主張を認めさせて、バイデン政権に影響を与えてきた。無論、サンダースが求める「メディケア・フォー・オール」など野心的な社会民主主義的政策の実現には程遠いが、中道派が支配していた過去の民主党に比べれば大幅な左傾化を達成した。
なお、筆者は「民主党左派とカマラ・ハリス」と題した論考でこれを「擬似サンダース政権」と比喩的に表現したが(SPFアメリカ現状モニター、8月12日)、異例に広範囲で読まれたことで、サンダースを攻撃する政治的主張と誤解されたことは興味深かった。筆者が米国政治に関与し始めた25年前はSNSがなく、日米が今ほど「地続き」ではなかった。日本人が米国の政党や政治家に肩入れしたり、党派的言論をSNSで断片的に逆輸入する風潮もほとんどなかった。筆者は米議会最左派の議員の鞄持ちをして以降、あらゆる党内闘争を見聞してきたが、中道派や共和党とも等距離で付き合った。
その筆者のサンダースとの縁も10年に及ぶ。彼の全国運動を初期から日本に伝えた。拙著『アメリカ政治の壁』は、格差反対を訴えるサンダース支持の有権者が、(女性有権者でも)16年予備選でヒラリーに投票せず、民主党を中から改革する様子を、労組、環境保護活動家、消費者活動家への取材で掘り起こした書だった(なお「左派」と日本の読者向けに簡略化しているが、ProgressiveやLiberalの系譜は現在、主として4グループ存在する)。
サンダースは民主党左派の外にいる「党外」の闘士で、二大政党に組み込まれることを嫌っていたが、支持者に請われて民主党予備選に殴り込みをかけた。予備選過程初戦のアイオワ州では「反ヒラリー」運動に「ウォール街を占拠せよ」運動が合流し、エスタブリッシュメント批判のうねりが生まれていた。彼らの運動に関心を持ち、15年夏のキャラバンに参加した。サンダースも夫人も実直で理想主義なだけに、党外の泡沫だと馬鹿にされていた。筆者はアイオワシティの事務所開きに居合わせた唯一の外国人だった。
サンダース周辺は、16年までは本気で大統領を目指していた。ところがヒラリー潰しに邁進した結果、先述の緑の党のネーダー同様、トランプ政権誕生を手助けしてしまった。そこで20年には、本選で民主党を勝たせることを選んだ。「反格差」で共闘するエリザベス・ウォーレン上院議員と票が割れていなければバイデンを負かす勢いだったが、最後まで追い詰めず、次期政権にアジェンダを呑ませる交渉を開始した。無論、サンダース陣営内は一枚岩ではない。情熱的なサンダース信奉者はこうした方針を、バーニーの信念が100%実現できない「野合」だと批判した。それでもサンダースは、指名獲得なしに党綱領と政権人事に一定の影響を確実に与える方程式を確立させたと言える。