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「令和の米騒動」とは何だったのか――コメ争奪戦を生んだ構造的要因と課題

小川真如(宇都宮大学助教)

思いがけない需要の増加

 23年7月から24年6月のコメ需要量は702万トンだった。これは、農林水産省が予想した680万トンより22万トンも多い。

 前年同期と比較して、11万トンも需要が増した。コメの需要量が毎年約10万トン減る傾向のなか、異例の動向である。だが国内の需要減少が底をうったとみるのは早計で、長期的には減少傾向が続く見込みだ。

 それではなぜ、需要量は急増したのか。一つの要因は、物価高騰に悩む家庭にとって、割安感があったからだ。消費者物価指数は、20年を100とすると、24年6月は食料品が116と大幅上昇するなか、米類は107と緩やかな上昇だった。円安で大幅値上げした小麦が原材料のパンは121、麺類は120と、コメのライバルの割高感も影響した。

 さらに、新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいた需要の回復や、訪日外国人の増加も消費拡大に拍車をかけた。

 農林水産省の試算では、23年7月から24年6月のインバウンド需要は5.1万トンで、前年同期から3.1万トン増えた。これを大した量ではない、とみる意見もある。しかし、自分が食べる分だけコメを買って炊く一般消費者とは違い、訪日外国人は中食(なかしょく)・外食や宿泊施設でごはんを食べる。食品ロス分も含め、訪日外国人の増加に伴って中食・外食産業や宿泊施設などが増やした仕入量を考えれば、3.1万トンよりも多くの需要が生じていたと思われる。


(中央公論11月号では、この後も備蓄米をめぐる政府対応の是非や生産調整政策の問題点、「新規需要米」制度の変更によるコメ品薄対策などについて詳しく論じている。)

中央公論 2024年11月号
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小川真如(宇都宮大学助教)
〔おがわまさゆき〕
1986年島根県生まれ。早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。修士(農学)、博士(人間科学)。専門は農業経済学、農政学、人間科学。日本農業研究所客員研究員、農政調査委員会専門調査員。著書に『日本のコメ問題』などがある。
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