「グレー」を活かす社会
現代の日本は、何であれ白黒をはっきりつけようとする圧力が強くなってきて、しばらく前までは「グレー」であったことも許されなくなってきた。かつては見過ごされていたさまざまなハラスメントが問題視され、なあなあになっていた就業規則がきちんと守られるようになっているのはよいことだ。その影響もあって、社会が喫煙にも厳しくなってきているのだろう。
だが、グレーな部分があったから社会がうまく回っていく面もあったのではないか。白黒をはっきりつけすぎると、「敵か、味方か」しかなくなってくる。そのような社会はあまりに息苦しい。私にはいわゆる右派の友人も左派の友人もいるが、考え方や問題意識は違っていながらも、「そんなものだろう」と思いながら付き合い、何度でも話し合ってきた。民意を集約するときもそうだが、自分では理解の及ばない選好を有する他者を尊重し、共存の道を探らなければならない。そのための知恵を私たちの社会は培ってきたはずである。
人にはいろいろな側面があり、切り口によっては誰もが多数派にもなるし、少数派にもなりえる。だからといって、例えばジェンダーマイノリティの苦しみが相対的なものだというわけでは決してない。まずは自分を見つめ直すこと、そして、相手に対して想像力を働かせて共同体のなかでともに生きることを考えていく。これが私たちの社会を維持するために必要な営為だと思う。
(『中央公論』2024年11月号より)
構成:戸矢晃一
杉谷和哉(岩手県立大学講師)
〔すぎたにかずや〕
1990年大阪府生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(人間・環境学)。専門は公共政策学。著書に『政策にエビデンスは必要なのか』『日本の政策はなぜ機能しないのか?』など。
1990年大阪府生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(人間・環境学)。専門は公共政策学。著書に『政策にエビデンスは必要なのか』『日本の政策はなぜ機能しないのか?』など。