政治・経済
国際
社会
科学
歴史
文化
ライフ
連載
中公新書
新書ラクレ
新書大賞

政治が揺さぶる日中ビジネスの現場 メディアが報じた「キャンセルの嵐」の実態は

浦上早苗(経済ジャーナリスト)
写真提供:photo AC
(『中央公論』2026年2月号より抜粋)

民間経済にも政治が絡む時代に

 筆者は中国経済、その中でも21世紀に台頭した中国民営企業を専門にしている。日本での仕事環境に閉塞感を覚えて2010年に中国に渡り、社会人になって初めて経済成長の中に身を置くことができた。10年代は孫正義氏が見出したEC企業のアリババグループ、通信機器メーカーのファーウェイ(華為技術)などの民営企業がグローバル市場で台頭し、スタートアップが次々に輩出するは「アジアのシリコンバレー」と称された。新聞社や研究者もこれら新興企業をカバーしきれていなかったので、この分野が自然と筆者のポジションになった。

 恥ずかしながら政治には明るくない。中国政治を研究する専門家はたくさんいるので、いずれにせよ筆者の出る幕でもない。だからジャーナリスト活動においても政治に触れることは極力避けてきた。

 しかし、20年代に入るとそうもいかなくなった。中国の共産党政権が企業活動に干渉することが増え、新興企業を語る上で政治の影響を無視できなくなったからだ。

 そして、政治と距離を置いている筆者でも、中国社会が台湾というトピックに極めて敏感であることは折に触れて感じてきた。中国の人たちと話しているときに何かの拍子で話題が台湾に及ぶと、皆前のめりに「台湾は中国だから」と主張する。筆者以上に政治に興味がなく、自分の成績や就職のことで頭がいっぱいの大学生でも、である。

 日本企業の中国駐在員からも、同じような話をよく聞く。

 私たち日本人は中国の台湾統一の野心に対して、危険なにおいを感じ取る。しかし多くの中国人はもともと中国の省だったのだから、今の状態が不健全であると考えている。

 ノンポリの若者でも台湾の話題を出した途端に態度が硬化するのだから、台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁に中国政府がいきり立つのは不思議ではない。高市首相は故安倍晋三氏の路線を引き継ぐ「極右政治家」と中国で評されていただけに、警戒感もひとしおである。

「ここでかましとかないと」とばかりに、中国は日本とのビジネスに以下のような圧力をかけてきている(25年12月10日時点)。


・国民への日本渡航自粛呼びかけ
・中国の航空会社への日本路線減便要請
・日本産水産物の輸入を事実上停止
・日本の新作映画に関する審査凍結
・日本人アーティスト・タレントの公演中止


 中国側の発表や各種報道を精査したところ、日本人アーティスト・タレントの公演中止については、政府が働きかけたわけではないようだ。また、水産物の輸入は11月上旬に約2年ぶりに再開されたばかりで、中国側は再停止の理由を「放射線検査に不足がある」と説明している。

1  2  3