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政治が揺さぶる日中ビジネスの現場 メディアが報じた「キャンセルの嵐」の実態は

浦上早苗(経済ジャーナリスト)

9割を占める個人旅行者は
損得で判断

 訪日外国人旅行者に占める中国人の存在感は、かつてほど圧倒的なものではない。日本政府観光局(JNTO)の統計によると2025年1〜10月の訪日外国人旅行者は3554万人。前年同期から17・7%増えた。通年でも、過去最多だった24年(3687万人)を上回るのはほぼ確実だ。そのうち中国人は820万人で、訪日外国人旅行者全体に占める割合は約23%。コロナ禍前の19年(通年)の約30%(総数3188万人、中国人959万人)から、まだ2ヵ月あるとはいえ大きく低下している。

 中国人旅行者の多様化も進む。

 JNTOの統計(訪日旅行形態)によると、15年はツアー比率が42.9%だったが、24年には11.9%に下がり、9割近くが個人旅行だった。それは25年も変わらない。

「団体旅行が〇〇件キャンセル」という報道はキャッチーではあるが、中国人の訪日旅行の1割にフォーカスしているにすぎない。

 つまりメディアが初期に報じた「キャンセルの嵐」は、やめても実害が少なく、やることで面倒に巻き込まれかねないものを、自主規制や忖度によって中止したと考えられる。

 中国人インバウンドの鍵を握るのは、訪日旅行者の9割を占める個人旅行者だ。

 団体旅行と違い個人旅行は、航空券、ホテル、交通機関、現地のアクティビティをそれぞれ自分で手配しているし、「この時期にしか見られない景色を見に行く」「アニメのイベントに参加する」など明確な目的があることも多い。旅行を取りやめるにしても、相当なコストが発生する。だから政府の要請よりも自身にとっての損得を重視する。

 筆者の知人は、高市発言の直前に26年1月下旬の日本旅行の航空券を予約した。予定通り来日するのか2度にわたって確認したが、今のところキャンセルするつもりはないという。

 いわく「全日空のフライトなので、減便にもキャンセル料無料にもなっていない。取りやめたら自分が損するだけ。周囲に隠してでも行く」とのことだった。

 実際、1〜2週間経つと報道のトーンは「中国人依存の高い店舗や施設は打撃を受けているが、影響は限定的」へと変わった。

 東海テレビのニュースで11月19日に「宿泊者の5割から6割が中国人」「昨日の段階では1000人ぐらい、これからどんどんキャンセル依頼が送られてくる」と報道された愛知県の蒲郡ホテルも、同21日にⅩの公式アカウントで「一部団体予約のキャンセルは発生しておりますが、営業および経営については通常通り、安定して運営を続けており......」と声明を出している。


(『中央公論』2月号では、この後も今回の対日経済圧力の特徴や、一般中国人への影響、日本メディアの過剰反応が中国側で切り取られて「日本が動揺している」と伝えられている現状などについて詳しく論じている。)

中央公論 2026年2月号
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浦上早苗(経済ジャーナリスト)
〔うらがみさなえ〕
1974年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、西日本新聞社記者に。2010年に退職し、中国政府奨学金を得て中国・大連に博士留学。大連民族大学で教員を務める。法政大学IM研究科教員。著書に『新型コロナVS中国14億人』『崖っぷち母子、仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』がある。
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