二度目の緊急事態宣言では、「夜八時以前の会食ならOK」というような誤解が広がったり、菅首相の説明不足が取り沙汰されたりするなど、科学コミュニケーションという課題が浮き彫りになった。
そこで、西浦博・京都大学教授とともに『新型コロナからいのちを守れ!』を上梓した川端裕人氏を聞き手に、科学コミュニケーターが感染症対策の課題をどう見ているのか、詫摩さんに話を伺った(二〇二一年一月十八日取材)。インタビューの後半部分を抜粋して掲載する。
科学コミュニケーターの存在意義
川端 そもそもなぜ未来館は大勢の科学コミュニケーターを抱えるようになったのでしょうか。
詫摩 未来館は国の組織なので、科学技術基本計画に則っています。その中にあるように、専門家と市民の橋渡しをする人を育成する必要があるという問題意識がありました。未来館はその実践の場であり、同時に人材育成の場でもあるのです。
それと、科学技術基本計画も変わってきているのですが、一方的に説明するのではなく、一般市民が特に新しい技術に抱いている不安や、「新しい技術を私はこのように使ってみたい」といった声などを、科学者や政策決定者に届けたり、科学技術の使い方を市民と一緒に考える場づくりができる人材を育てることを意識しています。
川端 今回のコロナをきっかけに、科学コミュニケーターが単に未来館の仕事だけではなく、もっと社会的に大きな役割を果たし得ることがわかってきた。それをきちんとサポートできるような仕組みが必要ですね。
また科学コミュニケーターが必要であるというだけでなく、なおかつ束になって存在することも大切です。
詫摩 そうです。特に今回のコロナのような非常時には、チームじゃないと対応できません。未来館には総勢約五〇人の科学コミュニケーターがいますが、番組に関わったのは、専門分野に近い八人の"精鋭部隊"でした。
川端 各都道府県にも約五〇人は無理にしても、絶えず数人が束でいてほしいものです。
詫摩 少なくとも感染症、地震、水害のような、いわゆるリスク関係のコミュニケーターは各自治体にいたほうがいいのではないかと、今回、自分自身が携わってみて思いました。
川端 リスク、そしてクライシスへの対応ですね。
詫摩 平時はたとえば防災グッズを整えましょうと呼びかけたり、あるいは楽しい科学ネタを伝えたりしながら、非常時にパッと動けるような体制を整えられるといいですね。さらに言えば、ルーティンの作業もしながら、非常時に対応できるだけの余力のある体制があればベストです。夢物語なのかもしれないのですけど。ちなみに未来館の科学コミュニケーターの任期は最長五年です。
川端 科学コミュニケーターはしっかりとした専門性をお持ちですから、未来館で何年かつないでアカデミックな場に戻る人もいますよね。
詫摩 正直なところ私たちとしては、任期の後も科学コミュニケーションに携わってもらいたいとは思っています。ただ、科学コミュニケーションのスキルを買ってくれるところがあまりないんですよ......。