詫摩雅子×川端裕人 リスク対策の鍵・科学コミュニケーションの体制整備を急げ

詫摩雅子(科学ライター、科学編集者)×聞き手:川端裕人(作家)

毎日、時間無制限で会見する台湾

川端 官邸に科学コミュニケーターがいるべきだと、僕と西浦博さんの共著『新型コロナからいのちを守れ!』の中でも指摘していますが、詫摩さんのような方に声がかかったりしないんですか。

詫摩 私よりももっといい人材が未来館にはいますから(笑)。やはり科学コミュニケーションのできる人材が政策決定の場にいて、市民の声をうまく引き出して聞きつつ、市民に話しかけたほうがいいですよね。

川端 その目で見た時、科学コミュケーションの成功例として思い浮かぶ国や指導者を教えてください。

詫摩 台湾とニュージーランドです。どちらも市民の信頼を得ることに成功し、感染症を抑えました。日本がめざすべきモデルだと思います。

 それと感染者数では成功しているとは言えませんが、ドイツのメルケル首相。きちんと市民の側に立って、納得できるお話をしています。

川端 市民の信頼を得る鍵は何なのでしょうか。

詫摩 毎日定時に話しかけること、市民の声も聞くことだと思います。

川端 僕はニュージーランドに住んでいたことがあるので、ジャシンダさん(アーダーン首相)の動向を熱心に見ていたのですが、彼女だけがすごかったわけではなく、アシュリー・ブルームフィールド保健局長が毎日、専門家的な立場で首相会見に同席して、科学的な説明を行うスタイルがすごくハマっていたんですね。

詫摩 リーダー一人が全部やる必要は全然ありませんよね。台湾もオードリー・タンIT担当大臣が有名ですが、陳建仁副総統(当時)、陳時中衛生福利部長(厚生労働大臣に相当)らを含めたチームの力なのです。

 NHKのETV特集「台湾・新型コロナ封じ込め成功への17年」で見たのですが、台湾は毎日定時に陳時中さんら五人くらいで記者会見を開き、そこで専用電話に届いた市民の質問や要望に答えていました。しかも時間制限はなく質問がなくなるまで続ける。

 その会見の一つで、ピンクのマスクしか買えず、そのため学校に行きたくないという小学生の小さな、しかしその家族にとっては深刻な悩みが取り上げられました。この時、会見する側が全員ピンクのマスクをつけて「ピンクっていい色だね」と。そこまですれば、市民も納得して協力してくれますよね。

川端 それは毎日やっているからこそ、できることですね。

詫摩 これがたとえば月に一度だったら質問に優先順位がついてしまう。

川端 なんだか違う星の話を聞いているような感じがします。(笑)

詫摩 そうですね。ニュージーランドの首相しかり、カナダでもフォード州知事が「イースター・バニー(復活祭のウサギ)は来てくれるの?」という子どもの質問に対して、ちゃんと答えている姿はやっぱりいいものですよ。

 台湾の場合は民主主義を大事にしている上に、SARSの痛い経験もあるからでしょうけれども、信頼を得るためにとにかく話しかけている。そのベースにあるのは、市民を信頼することだと思うんですよ。平時でも、「難しい科学の話をしても誰もわからないよ」と言われることがありますが、私の記者・編集者時代の経験からも、「私たちが読者(市民)を信じなくて誰が読者(市民)を信じるんだ、伝える私たちが相手をリスペクトして絶対わかってくれると信じようよ」と訴えたいです。

 説明を諦めてはいけませんし、政治家に対しても「説明してください」と投げかけることを諦めたらいけません。

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