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「富岳」の正体⑦ 富岳を使えば銀河形成の過程を忠実に再現できる

牧野淳一郎×聞き手:小林雅一

富岳の値段は高いのか

─ご自身は「富岳」のコデザイン推進チームのリーダーとして活躍されましたが、その経験を踏まえて「富岳のこういうところは良くできた」、あるいは逆に「ここは満足のいく出来ではなかった」というところはありますか。

 もともとポスト「京」(後の富岳)の開発プロジェクトでは、汎用プロセッサとGPUのようなアクセラレータ(加速部)を組み合わせることで(次世代の)エクサ級の性能を実現する計画でした。しかし途中で、公式には予算上の理由などから加速部の開発は見送られ、全体性能としては当初の計画よりだいぶ下がってしまったと思います。

 やはり今の時代だと、汎用プロセッサと加速部を組み合わせた方が性能も上がるし、全体のバランスも良い計算機ができたのではないかとは感じますね。

─富岳の開発製造費(予算)は一三〇〇億円と言われますが、これは米国の次世代スパコン(六億ドル=六三〇億円)等に比べて割高との批判もあります。これについては、どのようなご意見をお持ちですか。

 あくまで個人的な意見ですが、さすがに安いとは言い難いですね。「富岳」が若干高くついた理由の一つは、そこに搭載されるノード(プロセッサ)の数が一五万個以上と多いんですね。「オーロラ」(米国の次世代スパコン)がどこまでいくかわかりませんが、私の予想ではせいぜい二万か三万ノードです。富岳は加速部をなくして汎用プロセッサで統一したので、平均すると一ノードあたりの処理速度は低くなる。結果、より多くのノードが必要になり、費用が膨らんだのではないでしょうか。

 また開発・製造を(富士通のような)大企業に委託したことも影響しているかもしれません。たとえばベンチャー企業のPEZYコンピューティング、あるいは私もプロセッサ開発等に関わったプリファードネットワークスなどでは、一〇億~二〇億円程度で、かなり高性能のスパコンを作っています。なので、やっぱり富岳の予算面では少し大企業病的なところもあるように見えますね。

─ここからは富岳の活用面について伺います。巨費を投じた国策スパコンということもあり、ともすれば「国民の役に立つ」という点をアピールしたがっているように映ります。中でも喫緊の課題は新型コロナ対策です。(富岳関係者は)できるだけ早く結果を出さねばならない、というプレッシャーを感じているのでしょうか。

 コロナウイルス対策の中で一番重要になってくるのは、「どういった薬の効果があるのか」という研究でしょうね。これは京大の奥野恭史教授のグループが中心になって進めています。確かに「富岳」を使えば大量の薬理データを高速に解析できますが、それだけで薬ができるわけではありません。

 仮に「こういう化学物質が治療に効果がありそうだ」とわかったとしても、それが実際の薬品として認可されるまでには臨床試験を何度か繰り返す必要があります。私は医学や薬学が専門ではありませんが、恐らく数年はかかります。

 もちろん富岳にいろいろ期待が集まるのはいいんですが、それが万能で、すぐにも新型コロナ対策のような難問を解決してくれるという考えは、ちょっと現実離れしています。そこはやっぱりわかってほしいな、という気持ちはありますね。

─では国民の理解を得るにはどうしたらいいんでしょうね。

 うーん。これは私の個人的意見として聞いてください。以前の「京」プロジェクトの時には、そこで開発された超高速マシン(京)が神戸に一台設置されただけでした。でもスパコン開発というのは本来そうあるべきではなく、むしろ広く日本あるいは世界中で(オリジナルのスパコンの)コピー製品が買われて使われるのが望ましいですね。そうすれば国民に対する説明においても、「ちゃんと産業発展につながった」という理解を得られるでしょう。

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