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「富岳」の正体⑦ 富岳を使えば銀河形成の過程を忠実に再現できる

牧野淳一郎×聞き手:小林雅一

日本が米中に伍していくには

─ここからは海外の情勢も含めてお訊きします。ここ一〇年程の先端スパコン開発では、アメリカと中国が抜きつ抜かれつのトップ争いを演じてきました。ただ中国のスパコンはベンチマーク・テストでは性能は出るが、産業界で使おうとすると非常に使いにくいという意見も聞きました。実際はどうなのでしょうか。

 かつて中国のスパコン・メーカーはアメリカからプロセッサを輸入して、それを自社開発のマシンに搭載することができました。このやり方で作られた中国製スパコンは、決して使いにくいということはありませんでした。

 その後、米中関係が悪化すると、中国メーカーは米国のプロセッサを輸入して使うことができなくなった。このため「Sunway TaihuLight(神威・太湖之光)」(以前、トップ五〇〇で首位にランクされたスパコン)は、中国が独自設計したプロセッサを搭載しています。

 これは非常におもしろい設計になっていて、スパコンのようなHPC(高性能計算)に特化した分、それ以外の無駄を完全に削ぎ落としてしまった。結果、一般に広く使われているソフトウェアが神威・太湖之光では容易に動かなくなってしまいました。そういう意味では確かに中国のスパコンは使いにくいと言えますね。

 一方で、それ向きにプログラムを工夫して書いていくとすごく高い性能が出る、という面もあります。ある意味、今までにない新しい方向性が、中国のスパコン開発から生まれてきているという印象です。そういう見方もあると思いますね。

─そうした中で日本のスパコン開発も、今後AI研究など有望な方面に注力していけば米中に伍していけるでしょうか。

 どうですかね。これは日本の産業政策一般の問題ですが、今ある大きい会社にお金を出したのでは駄目ですよ。それはもう、あらゆる産業分野で恐らく同じ問題を抱えていると思います。

 むしろ小さくても技術力や将来性がある会社に思い切って任せる。そうした方が(スパコン開発でも)コストを下げられるし、米中にも伍していけると思いますね。

 


 このインタビュー記事は簡略版です。完全版は小林雅一著『「スパコン富岳」後の日本』(中公新書ラクレ)でご覧いただけます。

〔『中央公論』2020年12月号より抜粋〕

「スパコン富岳」後の日本

小林雅一

 世界一に輝いた国産スーパーコンピュータ「富岳」。新型コロナ対応で注目の的だが、真の実力は如何に? 「電子立国・日本」は復活するのか? 新技術はどんな未来社会をもたらすのか? 莫大な国費投入に見合う成果を出せるのか? 開発責任者や、最前線の研究者(創薬、がんゲノム医療、宇宙など)、注目AI企業などに取材を重ね、米中ハイテク覇権競争下における日本の戦略や、スパコンをしのぐ量子コンピュータ開発のゆくえを展望する。

牧野淳一郎×聞き手:小林雅一
◆牧野淳一郎〔まきのじゅんいちろう〕
神戸大学大学院・理学研究科教授。

【聞き手】
◆小林雅一〔こばやしまさかず〕
KDDI総合研究所 リサーチフェロー。
1963年群馬県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学系研究科を修了後、東芝、日経BPなどを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などを経て現職。『AIの衝撃』『AIが人間を殺す日』など著書多数。
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