新書の作り方、企画方法
――みなさんがご自身で担当するときに、どのように新書を作っているのか教えてください。
大岩 20年は『世界史の針が巻き戻るとき』というマルクス・ガブリエルさんの語り下ろし新書を出しました。海外の識者のインタビューを新書で出す試みは本書で6冊目で、この本から「世界の知性」シリーズと銘打っています。20年7月にはエマニュエル・トッドさんの新書『大分断』も刊行しました。
『世界史の針が巻き戻るとき』はドイツのボン大学の研究室で訳者の大野和基さんと共に取材させていただいたのですが、とにかくガブリエルさんがよくしゃべる(笑)。膨大な量の英語のテープ起こしを読み込んで編集する作業が本当に大変で......。抽象的な哲学論をどう読みやすく正確に訳すかについても、何度も議論を重ねました。でも苦労のかいあって、この本はガブリエルさんの哲学の入門書として、分かりやすくエッセンスを紹介できたと思っています。
小木田 私はテーマから企画を考えることが多くて、自分が知りたいと思ったこと、困ったなと思ったことから始まります。ただ、それだけでは企画として成り立つかどうかわかりません。自分の興味関心の輪に、他の人が共感し、社会的にも問う意義があるという社会の輪が重なるかどうか。そして市場で売れるのかどうか。自分の輪、社会の輪、市場の輪でチューニングしていく感じですね。三つの輪が重なった時に企画として出します。
――新書の読者は8割が男性で、メインは40~60代男性と、ある書店チェーンが発表しています。女性編集者として企画作りで心がけていることはありますか。
小木田 自分が女性だからと、女性向けやジェンダーを意識して企画することはあまりありません。ただ、幻冬舎新書について言えば、ベストセラーは女性の書き手で、読者も女性の本が多いんです。例えば曽野綾子さんの『人間にとって成熟とは何か』、下重暁子さんの『家族という病』、堤未果さんの『日本が売られる』、吉原珠央さんの『自分のことは話すな』などです。そもそも女性が買ってくれないとベストセラーにはならないですよね。ただどうしても教養新書は、学術を噛み砕いて一般向けに作るところに起源があるので、学術界の男性優位が新書にも反映されている面はあると思います。
草薙 私も特に意識しているつもりはありませんが、結果的に女性であり親であることが反映されていることはあると思います。例えば『「家事のしすぎ」が日本を滅ぼす』(佐光紀子、光文社新書)という本がありますが、元は家事について海外事例と比較検討する論文でした。それをどうすれば男性も読みたくなるのかという観点で編集しました。
大岩 私もジェンダーを意識してというより、個人的な問題意識から出発することが多いです。子どもが2人いるのですが、夫と家事育児を分担しており、職場でも理解ある上司や同僚に恵まれています。それでも仕事との両立がこんなに大変なのはなぜなのだろう、と。「個人的なことは政治的なことである」というフェミニズムの有名な言葉がありますが、当事者として、女性の生きづらさや多様な働き方をテーマにした本を継続して作っています。
――編集部の男女比率はどうですか?
小木田 実際に新書を作るのは女性の方が多いですね。書籍編集部全体で見ても、6対4ぐらいで女性の方が多いです。役員クラスになると、女性は1人なんですけどね。
草薙 うちの編集部は最近は7、8人の部員ですが、女性は私を含め2人ほどという体制です。育休明けで異動してきた女性がいますが、育児経験やジェンダーの視点をうまく企画に落とし込んでいて頼もしいです。
――会議で女性向けの企画が不利になることはありますか?
草薙 男性社員の中でも子育てにコミットしている若い人たちが出てきています。逆に自分の場合には、当事者だと考え過ぎてしまって、女性目線の強い企画を出せないような部分もあります。男性社員の目線から、子育ての問題や働き方の問題について、積極的に発言してくれたり、企画にしてくれたり、実際に行動面でも、積極的に在宅ワークをしたり、休みを取ったり、早く帰ったりしてくれることに助けられている部分があります。男性だからどうこうということはないですね。
小木田 男女差というよりも年代の差の方が大きい気がします。
大岩 なんとなくわかります。(笑)
小木田 若い男性編集者の出す企画の方がジェンダーについての意識が鋭いですね。逆に私の出す企画の方が昭和のおじさんっぽいものだったりします。(笑)