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学術を身体的に咀嚼し、社会と繫ぐ <新書大賞2023>大賞受賞『現代思想入門』千葉雅也氏インタビュー

新書大賞2023
千葉雅也
撮影:森 清/講談社
「新書大賞2023」を受賞した千葉雅也さんに受賞の感想、執筆にあたって意識したことを聞いた――

学術を身体的に咀嚼し、社会と繫ぐ

――大賞受賞、おめでとうございます。『現代思想入門』は今、10万部を超えるベストセラーとなっています。読者からの反応はどうか、また、それを受けての感想を教えてください。

 発売当初から反響が大きく、Twitterや読書感想サイトなどで日々反応を読ませていただいています。現代社会の現実的な問題と繋げて理解することができたという声がありました。あるいは、いわゆるニューアカデミズムのブームを通過してきた上の世代の方からも、1980年代当時、たとえば浅田彰さんの『構造と力』でドゥルーズの名前を聞いてもわからなかったが、今回改めて挑戦してみようという気持ちになったとか、いろいろ反応がありましたね。

 上滑りしている知識ではなく身体的で、具体的にかみ砕いて説明しているというふうに評していただくこともあり、嬉しいです。私が哲学書をちゃんと読み始めたのが18歳ぐらいからだとして、そこから25年ほど続けてきたわけですよ。自分も現代思想の文章に歯が立たない段階から、何段階も経て読めるようになってきたんです。

 その経験の中で、自分なりにいわゆる「腹落ち」する読み方ができるようになってきた。その理解を率直に伝えようとしています。形式主義は控えめにして、自分がこの間、理解したと思えることを書くように努めたのです。

 授業でも、フランクな語り方で、自分がわかっている現代思想について話しています。それはもちろん手前勝手なものではなくて、これまで大学院の先輩や研究者の方々と議論をしてきて、おおよその共通理解として、「デリダやドゥルーズとはこういうものだ」ということをわかってきたということです。

――執筆にあたり、新書という形式だからこそ意識したことは何ですか。

 新書の場合、長く手に取ってもらうことを想定すると思うんです。この本でも触れた今村仁司さん編『現代思想を読む事典』も名作だと思いますし、東浩紀さんの『動物化するポストモダン』(ともに講談社現代新書)などもあるし、新書の時間性を意識しましたね。

 スタンダードなものを書きたいという思いがありました。それなりに個性的な本だと思いますけれども、あまり変なことは書かないように心掛けました。長く読んでもらいたいし、読者に偏ってもらいたくないし、ここを基準にしてほかのところに手を伸ばしていけるように考えました。だから、タイトルも非常にシンプルなものにしました。

――本書では現代思想を代表する哲学者として、デリダとドゥルーズ、フーコーが据えられています。どのような基準で選ばれたのでしょう。

 三巨頭、ビッグスリーといったらその三人だと思います。改訂版を出すのなら、たとえばバルトを入れて、「作者の死」といった主題を追加するかもしれないですが、文学論になるので、見送りました。

 いずれにせよ、今回は「脱構築」というキーワードを前面に押し出しました。フランス現代思想といえば「差異」の哲学です。差異はフランス語ではディフェランスといいますが、英語ではディファレンスですね。差異の哲学を最も強烈に示したのは、その三人ではないかと思います。とくにそれを方法論的にシャープに示したのがデリダで、その思考が脱構築と呼ばれるわけです。

 本書は、入門書であると同時に、現代思想と精神分析の関係や、デリダら以後の最近の動きまでをも総合的に見通した、日本語で唯一の研究書だと自負しています。

〔『中央公論』2023年3月号より〕

 

「新書大賞2023」上位20冊までのランキングと、有識者48名の講評など詳細は、2023年2月10日発売の『中央公論』3月号に掲載されています。

特設ページでも上位20位までのランキングを掲載しています。
「新書大賞」特設ページ https://chuokoron.jp/shinsho_award/

 

現代思想入門(講談社現代新書)

千葉雅也

出版社:講談社現代新書 発売日:2022/3/16

中央公論 2023年3月号
電子版
オンライン書店
千葉雅也
ちばまさや
1978年栃木県生まれ。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は哲学・表象文化論。著書に『動きすぎてはいけない』(紀伊國屋じんぶん大賞、表象文化論学会賞)、『勉強の哲学』『デッドライン』(野間文芸新人賞)、『オーバーヒート』(表題作芥川賞候補、併録「マジックミラー」川端康成文学賞)など。
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