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ネット発「動員の革命」は日本を変えるのか

津田大介(メディアジャーナリスト)× 茂木健一郎(脳科学者)

マスメディアと透明性

茂木 フジテレビへのデモについては、僕もある意味では当事者です。ものすごく炎上して、誹謗中傷が山のように押し寄せてきました。今まで僕の経験した炎上の中でも、一番、パッションを感じましたね。(笑)
 この問題から僕が考えたのは、今後のマスメディアのあり方を考えると、番組編成のプロセスなど、あらゆることに透明性を持たせることが信頼を培う近道なんだということです。今までのマスメディアは自分たちにとって都合のよい情報を、都合のよいタイミングで出すというように、情報を操作していました。でも、それはもう時代遅れです。もう基本的に「情報は管理ができない」ことを前提にメディア戦略を考えなくてはいけないと思うんです。
 例えば『ネイチャー』という科学雑誌は、どの論文を載せるかについて、細かな情報開示をしています。有名な科学者が裏から根回しして、論文を載せるようなことがあると、信頼が失われてしまうと考えているからですね。
 また Google も、特定の人や企業からお金をもらって、ページの検索順位を上げるといったことをしてしまえば、検索エンジンとしての信頼性を損ねる。だから、検索結果を導くアルゴリズムを完全に開示して信頼性を担保しています。
 そういう意味では、フジテレビに限らず、マスメディアが巨大ブラックボックスのようになっていて視聴者から信頼を獲得できていなかったことは事実でしょう。
 一方で、ネットに透明性があるかと言えばそうでもない。今回の僕の炎上にしても、「ハムスター速報」という2ちゃんねるのまとめサイトが僕の「国際化時代に韓流の何が悪い」という発言を曲解する形で掲載したことがきっかけです。立派な印象操作です。そのうち本筋から外れて、もともと韓国の文化が嫌いな人や、以前僕が本誌で池田大作さんと往復書簡をしたことや、民団で講演をしたことが気に入らない人も集まってくる。そしていつの間にか僕は「創価学会から金をもらっている在日韓国人で民団の手先の茂木健一郎」に仕立て上げられていました。

津田 でも実際に「革命」を起こすためには、その「炎上」を仕掛けてきたり、その炎上にただ面白がって乗っかってくる人たちも全部受け入れるしかないということですね。

茂木 そうなんです。これは辛いところですが、仕方がない。「悪い炎上」を排除していると、結局、何も変わらずに、水が澱んでいってしまいます。
 ところで、津田さんはフジテレビへのデモについてはどう見ていますか。

津田 このデモは、批判の矛先がメディアに向いたのが一つのポイントだと思うんです。 
 我々の生活が苦しくなってきた。どうも政治がおかしいのが原因のようだ。でもそのおかしな政治しかできない民主党に、「子ども手当」に騙されたのか分からないけれど、投票する人がいる。結局、日本をおかしくしたのはマスメディアが原因なんじゃないか。
 このように考えている人と今回のフジテレビへのデモに参加する、またはデモを支持するメンタリティは相当に近いと思っています。
 マスメディアは「第四の権力」だと言われますが、世界的に見ても日本はマスメディアの力が強過ぎるのは確かです。イギリスの公共放送局BBCにしても、ヨーロッパ最大の雑誌であるドイツの『デア・シュピーゲル』にしても、日本の新聞や民放に比べれば、まるで力がない。
 そもそもドイツのメディアは「煽る報道」をします。それこそ日本の夕刊紙がするような話半分で聞くべき報道をドイツでは主要メディアが流す。だからドイツ人には、「雑誌やテレビで流れる情報にはウソが混ざっているかもしれない」というリテラシーが身についているんですね。
 一方、日本人はメディアを基本的には信頼しています。ただ「信頼」も行き過ぎると「依存」になります。日本人がメディアに対して「とにかく公正な報道をするべきだ」と執拗に要求するのは、メディアに依存していることの裏返しだと思います。
 この日本人の依存体質が、なかなかネット発の新しい報道が生まれない原因のような気もしています。

茂木 なるほど。情報を受け取る側にも問題はあるということですね。実は僕も最近、マスメディア側の透明性と同じように、民衆の側の透明性も大事な問題として考えるようになりました。
 つまり、一人一人の民衆が、どういう情報に基づき、自分の意志決定をしているのかがあきらかになっていないと、彼らとの間で理性的な話し合いや興味深い意見のやりとりができないんです。そして結局、こちらは言われ放題になってしまう。これは「メディア」の将来を考える上で非常に大きな問題ですよ。

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