茂木 本来ならば、SNSというのは、「クローズアップ現代」に出る人も、マスメディアには出てこない人も、平等なものであるという理念があったはずなのに、実際には隠然とした形でヒエラルキーが残っているんですよね。僕がいくらフラットだと思って接しても、相手側がヒエラルキーを感じてしまう場合が多い。そこがすごくねじ曲がった状況だと思うんです。
津田 また難しいのは、ネット上で嫌韓話をしている人がみんな、社会的に恵まれていないような人かというと、そういうわけでもないことです。お金持ちの人も、新聞嫌いやテレビ嫌いからネットにどっぷり浸かっていく場合もあります。ここにもグラデーションがあるんですよね。
敵の本丸は別のところにある
津田 僕の最近の問題意識としては、SNSにおいて、中間的な物言いがすごくしにくくなっている気がしますね。とにかく「ゼロかイチか」で語る人ばかりが支持される空気が蔓延している。
茂木 原発問題が典型でしたよね。「お前は反原発なのか、それとも原発推進なのか」と。
僕などは、いち早く原発推進派にされてしまったどころか、いまだに「お前は東電からカネを貰っていただろう」と言ってくる人がいます。でも僕は、ゼロかイチかで言えば、反原発です。現実はそんなに単純なものじゃないとも思っていますけど。
確かに震災以前は、反原発はロックンロールでした。でも今は体制派そのものですよ。シンポジウムなんかを開いて反原発の署名を集めている文化人を見ていると、あの人たちは一番安全なところにポジションを置いているんだなとしか思えない。僕は安全なところに自分のポジションを置いたことは一度もないつもりです。
津田 面白いですね。
茂木 ネット上の人は「敵」を間違っていると思うんです。検察にしてもマスメディアにしても、アンシャンレジームの中核にいる人はもっと奥に潜んでいる。津田さんや僕のように前には出てこない。さらに匿名で、匿名であるからこそ、旧体制は維持されてきている。津田さんや僕を叩いている暇があるなら、そっちの尻尾を捕まえる努力をするべきだと思うんですけどね。
津田 最近、僕はメルマガを始めたんです。なぜ始めたかというと、新しい政策メディアを作るための資金を稼ごうと思ったから。マスメディアの政治報道はいつまでも「小沢派がどうだ」といった政局しか報じない。でも知りたいのはそこじゃない。誰がどういう政策を考えていて、あの人が首相になると日本はどうなるのかというところですよね。マスメディアに文句を言っていても埒があかないので、僕自身でいわゆる「政治メディア」ではない、「政策メディア」を作ってしまおうと思ったんです。
そのときに、焦点になるのは、まさに匿名化していて本丸が見えなくなっている「役所」です。役所に矛先が向かない限りはたぶん政策のレベルも向上しない。だから役所をウオッチして、ポップに伝えていくメディアが必要だと考えたんです。
茂木 大賛成です。津田さんの新しい政策メディア、できあがるのをとても楽しみにしています。
状況適応能力と状況作成能力
茂木 先日、宝島社が「いい国つくろう、何度でも。」というコピーとマッカーサーが厚木の飛行場に降り立つ写真を合わせた全面広告を主要紙に出して話題になりましたが、日本というのは基本的に、黒船というか外圧でしか変わらない側面があると思うんです。実際、明治維新も含めて、一度も内発的な革命を経験したことがない。
SNSがいくら優れたツールだとしても、それを使う人間に「変わる」という気がなければ、何も変わらないと思うんですよ。
ただ、のんびりと気持ちが切り替わるのを待っているわけにもいきません。状況は差し迫っています。原発の後処理問題にしても、財政は悪化し続けているのに景気は一向に回復しない経済の問題にしても、このままでは日本はソフトランディングできないように思うんです。