(『中央公論』2021年6月号より一部抜粋)
聖火リレーはなぜ重要なのか
─目下、聖火リレーが日本国内を回っていますね。
昨年三月、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の感染拡大の最中、ギリシャから綱渡りで運んできた聖火を、一二一日かけてリレーで全国を繋ぎ、最終的に新国立競技場の開会式で聖火台に点火することになっています。東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京大会)という名称のせいか、地方の人たちは「東京」のイベントと思っているかもしれません。
しかし、聖火リレーは、約一万人のランナーや人々の思いを繋げながら、全国津々浦々を回り、行く先々に希望や勇気、力を届けます。そして、いよいよ五輪が開催されるんだということを間近に実感し、日本全国で大会への関心と期待を呼び起こすという重要な意味があるのです。
─スタートした時点で、五輪開催は明確に決まっていたということですか。
聖火リレーの最終ランナーは開会式で聖火台に点火します。その意味で五輪開催に向けてスタートしました。
─しかしながら、コロナの感染拡大で、大阪府や愛媛県など中止を発表した自治体もありますね。
聖火リレーは、自治体と連携をとり、安全最優先で万全の態勢で進めています。ただ、今回、"中止"との表現もありましたが、正確には中止ではありません。例えば大阪府の場合、公道の走行は取りやめたものの、聖火ランナー約一七〇人が聖火の灯るトーチを持って、万博記念公園を走りました。クローズドの(閉鎖された)場所ではありますが、希望者は全員が走りましたし、形を変えて実施したもので、決して中止ではありません。
今後、コロナの感染拡大がさらに深刻な事態に陥った場合には、リレーの走行は行わず、聖火ランナーとともに聖火皿に聖火を灯すセレブレーションのみを行うケースも出てくるかもしれません。いずれにせよ、ランナーにとっては、実際に参加することで何がしかの感動が起こり、一生の思い出になる人がほとんどでしょう。五輪開催に向けて、聖火リレーは重要なプロセスの一つだと思っています。