無観客、延期、中止の可能性は?
─北朝鮮が参加を辞退しましたが、他国にも不参加が広がる恐れはありませんか。また、自民党の二階俊博幹事長のようにコロナの感染状況によっては「中止」も視野に入れるべきという意見が強まる可能性もあると思います。今後をどのように展望していますか。
北朝鮮以外に来ないと言っている国は、今のところありません。現段階ではむしろ期待感のほうが高く、世界中のアスリートにとって開催が前提になっています。
コロナ禍の中で、本当に開催できるのかという不安は、よくわかります。しかし、だからと言って、本当に中止でいいのか。
中には「中止すれば無駄なお金を使わなくて済む」という意見がありますが、既に大会開催に向けて予算のほとんどを支出していますし、中止になっても契約上支払わなければならないものもあり、節約にはなりません。何よりも、万が一中止になったら、東京大会を通じて日本の文化や価値を世界に発信する機会を失うことになります。そのチャンスを二〇二二年の北京冬季大会に譲ることになるでしょう。
一方、万全のコロナ対策を講じ、艱難辛苦を何とか乗り越えて開催できれば、コロナによって分断された世界に人々の連帯を取り戻すことになるのではないか。東京大会は大きな意義があったものとして、語り継がれると思います。
正直なところ、何が何でも、無理をして開催するわけにはいきませんが、やはりこういう時こそ強い意志を持って引っ張っていく、そういう役割が必要なのだと思っています。
もちろん、いろいろな意見があることは承知しています。日本の世論の六~七割が今年の夏の開催に反対だとの報道もあるのですが、この中には実は中止派が三割程度、延期論者が三割程度となっています。延期は開催が前提ですから、反対と延期は本質的に異なるということです。とはいえ、私は延期という選択肢はもはやないと考えています。それにはいくつか理由があって、まず北京五輪が予定されているため、二〇二二年には絶対に延期できない。中には二四年予定のパリ大会を二八年に延期してもらえ、という声もありますが、およそ国際感覚に乏しい意見です。
何よりアスリートにとって一年延期になると、パフォーマンスやモチベーションを維持するのが大変なのです。さらに延期してこれらを保つことはできない。次の世代も台頭してきます。
もう一つはあまり事情が知られていないと思うのですが、延期になると選手村の確保という問題に直面します。一万八〇〇〇人の選手や関係者を収容する選手村は、晴海で民間が建設しているマンション群を活用します。二〇二〇年に延期が決まった時、私は真っ先にデベロッパーの幹部に連絡して、もう一年使わせてくださいとお願いしました。すでに九〇〇戸余りが売却済みでしたが、なんとか協力していただくことができたのです。しかし、もう一年の延期をお願いすることは不可能です。そしてこのような施設は、もはや東京にはありません。
─海外からの観客のみならず国内の観客も「無観客」にすべきという意見もありますね。
どうなるかはわかりません。無観客は基本的には望ましくないですが、今、予断をもって申し上げることはできません。
今年、松山英樹選手が優勝したゴルフのマスターズや、テニスの大坂なおみ選手が優勝した全豪オープンも、観客数が制限されたり、一部無観客でしたが、感動に違いはありません。やはりプレーヤーに目が行くものですよね。なので、たとえ無観客になったとしても開催すべきだと思っています。
アスリートが競技を行うこと自体は、コロナがアンダーコントロールであればできると思いますね。もちろん選手にはPCR検査を徹底し、外部との接触を遮断するクリーンな状態(バブル)をつくる必要があるでしょう。
ただ、かえすがえすもワクチンですよね......日本は諸外国に比べて遅れているのが残念です。