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能町みね子「白鵬の14年 栄光と意図せぬ対立」

国籍、家の事情、世間の風潮に翻弄されて
能町みね子(文筆家・漫画家)
 11月14日に初日を迎える大相撲11月場所の横綱は照ノ富士一人。横綱白鵬が9月場所後に現役を引退したためだ。数々の記録を打ち立てた白鵬。横綱に昇進してから引退までの14年の歩みを文筆家・漫画家の能町みね子さんが振り返る。
(『中央公論』2021年12月号より抜粋)

寂しい引退会見

 白鵬の引退会見は一種異様なものであった。多数のフラッシュがたかれる中で「体力の限界」というフレーズを絞り出した千代の富士、金屏風の前でやはり多数の記者に囲まれ、悟りきったような表情で淡々と語った貴乃花という、近年の印象的な引退会見に比べると、2人を凌ぐ実績を残した横綱としてはずいぶんあっさりとした会見であった。コロナ禍という特殊な状況で、記者があまり入れなかったことを差し引いても、あまりに寂しいものだった。

 寂しかったのは、会場の状況だけではない。今まで、土俵下の優勝インタビューで黙祷する、観客とともに万歳三唱をする、三本締めをするなど、踏み込んだ発言やパフォーマンスを積極的に行い、そのたび「厳重注意」などの処分を受けていた白鵬が、ずいぶんしおらしく会見していた。

 冒頭から「日本相撲協会に感謝しております」と述べたのを始め、「師匠(宮城野(みやぎの)親方)の下で一から親方として勉強して」などと再三にわたって親方への思いを強調し、さんざん自分の相撲を批判してきた横綱審議委員会に対しても「横審の先生方の言葉通りに直したいという時期もありました」「理想とする相撲ができなくなったのは反省しています」と、驚くほど従順な態度だった。

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