2022年8月15日に、夏休みに入った岸田文雄首相が、八重洲ブックセンター本店に立ち寄り、購入した書籍の1冊が『フランクリン・ローズヴェルト』(著:佐藤千登勢/中公新書)とされる。ローズヴェルトはアメリカ史上唯一四選された大統領であり、在任中は、内政・外交ともに辣腕を振るった。いかにして20世紀を代表する指導者となったのだろうか――。
※本稿は、中公新書『フランクリン・ローズヴェルトーー大恐慌と大戦に挑んだ指導者』の一部を抜粋・再編集したものです。
※本稿は、中公新書『フランクリン・ローズヴェルトーー大恐慌と大戦に挑んだ指導者』の一部を抜粋・再編集したものです。
- ニューディール政策で経済の立て直しを
- 当時のアメリカでは斬新な政策、批判もあった
- 大戦後、「ひとつの世界」を目指した
ニューディール政策で経済の立て直しを
フランクリン・D・ローズヴェルト(1882~1945)は、アメリカ史上ただひとり、4選され、12年の長きにわたり政権を担った大統領である。その12年間は、大恐慌と第二次世界大戦というふたつの危機に見舞われた激動の時代であり、ローズヴェルトはそうした危機に果敢に挑んだ指導者だった。
民主党の候補として共和党現職のフーヴァーを破り、大統領に就任した1933年3月は大恐慌の只中にあり、アメリカ経済は未曾有の景気後退に見舞われていた。工業生産は3分の1以上減少し、失業率は25%にも達しており、りんごを売って日銭を稼いだり、物乞いをする人が路上にあふれていた。つい数年前まで繁栄を謳歌していたアメリカ人は奈落の底に突き落とされ、完全に自信を喪失していた。
そこに救世主のように現れたのがローズヴェルトだった。彼は大統領就任式で、「我々が恐れなければならないのは、恐怖心そのものだけだ」と述べ、勇気を持って立ち向かえば、大恐慌は必ず克服できると国民を鼓舞した。国家の緊急事態に対処するために行政府の権限をかつてないほどに拡大し、「ニューディール」(新規まき直し)とよばれる大胆な政策を実施することで、経済の立て直しを図った。その政策は、景気回復や失業者の救済にとどまらず、国民に安定した生活を保障するという観点から、労働法や社会保障法の制定にも及び、構造的な改革が進められた。