岸田首相が夏休みに購入した1冊は『フランクリン・ローズヴェルト』。大恐慌と第二次世界大戦に挑んだ指導者の姿とは

未曾有の景気後退に立ち向かった
佐藤千登勢(筑波大学教授)

当時のアメリカでは斬新な政策、批判もあった

 こうした政策は今日、私たちの目には当たり前のことのように見えるが、当時のアメリカでは、非常に斬新で目新しいものであった。そのため、機会均等と自助努力を是とするアメリカの伝統的な価値観からかけ離れた政策だとして、批判する者も少なくなかった。また、ローズヴェルトの政策は、大恐慌への対症療法的な性格が強く、体系的な政治思想が欠如しているといった批判も根強くあった。

 だが、ローズヴェルトは、批判をかわす能力に長けていた。現代に比べると、メディアの選択肢がはるかに少ない時代に、コミュニケーション能力を遺憾なく発揮して、国民の信頼を勝ち取った。「炉辺談話」というラジオ番組で、「父親のような」語り口で自分の考えを国民に説明したり、ホワイトハウスに新聞各紙の記者を集めて定例の会見を開いて、ユーモアたっぷりに政策を披露したりした。

 ローズヴェルトは、とりわけ労働者や移民、マイノリティーの間で絶大な人気を博した。彼は、保守的な南部民主党への配慮から、リンチを取り締まる連邦法や公民権法の制定には消極的であった。しかし、生活に困窮していた多くの黒人が、ニューディールの失業対策などの受益者となり、ローズヴェルトを熱烈に支持した。リベラルな政党としての民主党の支持基盤は、この時期に確立され、今日まで続いている。

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