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中野長武 「職業日記シリーズ」快進撃の内幕――なぜ高齢読者の心をつかめるのか

中野長武(三五館シンシャ代表取締役) 聞き手:urbansea
中野長武氏
『交通誘導員ヨレヨレ日記』(以下『交通誘導員』)、『マンション管理員オロオロ日記』など現在13冊、累計発行部数45万部の「職業日記シリーズ」。これを手がけるのは、三五館シンシャの社長にしてただ一人の社員、中野長武氏(46歳)だ。
(『中央公論』2022年10月号より抜粋)

なぜ売れたのか?

──タイトルやカバーイラストが印象的なこのシリーズ、どういう経緯で生まれたのでしょうか?


「職業日記シリーズ」は、介護やコールセンターなど、理不尽な目に遭いがちな仕事に就いている人たちの生活をテーマにしています。一般人の持ち込み原稿をもとに、「給料のことも書いてください」「こういう話は不要です」などと伝えては書き直してもらい、仕上げていきます。

 とはいえ、1作目(2019年)の交通誘導員の柏耕一さんは、もともと出版関係者なので原稿はすでに出来上がっていました。それが3~4社に断られて、たまたま私のところに来たんです。

 たしか「交通誘導員フラフラ警備日記」という仮タイトルが付けられていたのですが、それを少し短くし、さらに「ヨレヨレ」を二人で話して決めました。

 副題の「当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます」は、私からの提案で付け加えたものです。


──このシリーズは、ページ下部に付いている膨大な脚注も読み応えがありますね。


 専門用語を本文で説明していると鬱陶しくなるので、脚注を付けました。とはいえ脚注の内容を用語解説だけに限ると4~5ページに一つになり、スカスカになってしまう。そんな本を読者に提供するわけにはいきませんし、どうせなら楽しんでもらおうと思いまして、柏さんに雑多な話を聞いては、どんどん脚注に入れていったのが始まりです。


──『交通誘導員』のまえがきに「類書がない」とあります。出版社では、類書がないものは企画会議で通りにくいと聞きます。これが出せたのは中野さん一人の会社だからでしょうか?


 そうかもしれませんね。一人でやっている会社なので、そもそも会議がありません。私が面白いと思えば出版できます。それに会社を大きくするどころか、社員を2人にするつもりすらありません。数千部を刷って増刷がかかれば、商いとしては充分なんです。

 だから数千人が読んでくれさえすればいいので、割り切って決断しやすいというのもありますね。


──そうして出した本が今や7万6000部ですね。


 売れるきっかけは、『読売新聞』の「サンヤツ」(一面の下部にある、文字だけの書籍広告欄)なんですよ。本好きはあそこを見るんです。それまで、うちの本は広告を打ってもあまり動きがなかったんですが、『交通誘導員』は違いました。

 朝刊に広告が出た日、いつものように10時前ぐらいに事務所に行くと、中で電話が鳴っている。それで急いで入って電話を取ったら一般の方からで、「新聞に載っている、この本ください」って言うんです。「うちは出版社なので本は売っていないから、こちらの番号に電話してください」と宅配で本を買えるサービスを案内して切ったら、またかかってくる。

 当時は新聞広告に自社の電話番号を載せていましたが、それを見て電話をかけてくる人なんて、通常はいないんですよ。それが朝からずっと電話が鳴り続けまして、バタバタしているうちに「これ、売れるな」と。嬉しかったですねえ。

 電話は全部、お年寄りの声でした。サブタイトルに入れた「73歳」が効いたのかもしれませんね。自分と同年代の人が働いていることを書いた本だというので、興味を持ったんだと思います。

 それから書店で売れ始めて、この本は広告が効くとわかってきたため、新聞広告をどんどん大きくしていきました。(笑)

三五館シンシャの「職業日記シリーズ」

 そうこうしているうちに、今度は「老後2000万円問題」が話題になります。老後に備えて、年金以外にそれだけの資産を貯めておく必要があると。NHKがこの問題の特集の中で、そうは言うけれども老後も働かないと暮らしていけない人がいるんだという流れで『交通誘導員』を紹介してくれたんです。

 その他、『朝日新聞』やテレビ東京のニュース番組など、いろいろなメディアで取り上げられて、どんどん売れていきました。高齢者を中心に、読者が我がことのように感じて買ってくれたのだと思います。

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