大阪市全域の路上喫煙禁止
3月に、大阪市の松井一郎市長は、2025年に市全域の路上喫煙を禁止すると発表しました。現在大阪市では、梅田、天王寺など六つの地区で路上喫煙禁止区域を設定し、違反者には1000円の過料(制裁としての金銭的負担。前科にはならない)を科していますが、それを市全域に拡大するというものです。
しかし、路上喫煙の禁止は、受動喫煙防止の観点から見て根拠に乏しい措置なのではないかと私は考えます。吸い殻のポイ捨てなどの環境対策だということならまだ分かります。ただ、そうなると、飲料容器やガムのポイ捨てなど、ほかの環境美化問題はどうなのか、ということになりますし、既存の法令での対処が可能であり、筋が通りません。
また、松井市長は、路上喫煙禁止の目的として「(2025年の大阪・関西)万博に向けて」と説明したそうですが、世界の潮流を考えると、これも疑問です。私が知る限り、路上喫煙規制を日本ほど厳しく行っている国はありません。例外はありますが、海外では屋外は基本、喫煙可能。その反面、屋内規制は徹底しています。たばこに対して厳しいことで有名なオーストラリアでも、路上喫煙は原則自由で、カフェのテラス席での喫煙は、店の管理者が規制していない限り可能です。有害物質を含むたばこの煙について、法規制による排除が必要とされるほど健康に影響がある場所と、排除するまでもない場所とできちんと線引きしているのです。WHOも、受動喫煙防止のために屋内は厳格に禁煙にしなくてはいけないと言っていますが、屋外も規制せよとは言っていません。
海外からのお客さんも、大阪市の路上でたばこを吸おうとしたら全部アウトなのに、屋内禁煙は徹底されていなくてむしろ戸惑ってしまうのではないでしょうか。大阪市がこれからどのような理屈で路上喫煙の禁止を進めていくのか注目しています。
愚行権という言葉があります。愚かな行為をする権利のことです。「俺は愚かだ」と承知でやっている他人の行為を、無理にやめさせる権利は我々にあるのでしょうか? たとえば、競輪、競馬、競艇、宝くじその他のギャンブルは、私に言わせれば愚行以外の何物でもない。だからといって他人が制限していいのか、ということです。
現在でも日本では、30代、40代の男性給与労働者の4割近くがたばこを吸っています。私は、彼らにはたばこを吸いながら休憩できる場所が必要だと思うのですが、たばこの吸える喫茶店も原則として認められなくなってしまいました。
喫煙場所を確保できない小さなバーや飲み屋さんも大変です。喫煙できるところがなければ、客はビル陰の目立たないところに行って隠れて吸うしかない。それでは失火火災の危険が生じます。神奈川県の受動喫煙防止条例を作ったときも、喫煙所を作れない小さな旅館から猛反対がありました。(客室を除く全域を)禁煙にしたら客が隠れてたばこを吸う可能性があり、むしろ危険だと。結局、小さな旅館などは条例による規制を努力義務にとどめました。
路上喫煙を市全域で禁止する予定の大阪市には、年間約263億円に上るたばこ税収入があります(2020年度)。路上喫煙を厳しく規制するなら、このお金で市内随所に喫煙所を整備してはどうでしょう。隠れて吸われるよりずっとマシです。
私自身は、路上喫煙は全面禁止ではなく、喫煙できる場所――壁で囲ってしまう喫煙所ではなくて、灰皿が街角の要所要所に立っているような形のもの――を屋外に用意するのが合理的だと思います。もちろん歩行喫煙は他害の可能性があり、論外です。(談)
1952年奈良県生まれ。中央大学法学部卒業。上智大学大学院博士後期課程単位取得満期退学。東海大学法学部専任講師、助教授を経て、同大学法学部教授。2017年退職。07年「神奈川県公共的施設における禁煙条例(仮称)検討委員会」委員。以降、神奈川県で「たばこ対策推進検討会」座長、「条例見直し検討部会」会長などを務める。