「団塊男類」「団塊女類」「島耕作」「毒親」……。自身も団塊世代である社会学者の上野千鶴子さんがさまざまなキーワードを交えて語る団塊世代の功罪とは……。
(『中央公論』2023年4月号より抜粋)
(『中央公論』2023年4月号より抜粋)
男と女で違う"嫌われる理由"
「団塊世代は嫌われる」とよく言われます。しかし、私が最初に強調しておきたいのは、「団塊男類(だんるい)と団塊女類(じょるい)は別物である」ということです。団塊男類は旧男類で、団塊女類は新女類。大きなジェンダーギャップが存在します。
団塊男類は、高度成長期の昭和型ホモソーシャル社会に参入・適応していった、「ザ・島耕作」です。長時間労働で家事育児には手を出さない代わりに、会社では他人の人生に踏み込んだり諍いに手が出たり、仕事帰りに部下を引き回したりするような暑苦しい旧時代型の男たち。クールな下の世代には当然嫌われます。
他方、男女共学で育った団塊女類は学生時代を男子と対等に過ごし、男子より成績のいい女子もいたのに、親の性差別のせいで上級学校には行かせてもらえませんでした。能力差のせいではありません。
『an・an』や『クロワッサン』などの女性誌は「友達夫婦」という新しいモデルを提示しましたが、現実には保育所も就労支援もなく寿退社がデフォルトの、完全な性別役割分担型。子どもの数は少ないので、育児期はあっという間に終わりますが、その後再就職しようと思った女性に残された選択肢は、非正規やパートだけ。「こんなはずじゃなかった」と団塊女類は思ったはずです。
そのツケが、毒親(どくおや)現象(過干渉などによって親が子どもを支配すること)となって表れます。日本の場合、毒親のほとんどは母親ですが、それは父親が全く育児に関与していなかったからであり、共学で男と同じ夢を抱いたのに、道を塞がれた女たちによる欲求の代理充足がそのまま子ども、特に娘たちに向かいました。だから団塊ジュニアの女の子たちの母─娘関係は困難なものでした。