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上野千鶴子 団塊男類は旧男類、団塊女類は新女類。存在する大きなジェンダーギャップ

上野千鶴子(社会学者)

理想主義の敗北

 もう一つ私が指摘しておきたいのは、団塊世代すべてが全共闘運動の参加者ではなかったということです。当時の大学進学率は男性が約20%、女性が約5%、全体でも約14%です。そのなかで全共闘運動に参加したのは、シンパも含めわずか約2割。よく、全共闘参加者はブル転(ブルジョア転向)して会社や役所で偉くなった、と言う人がいますが、そんなことはありません。出世したのは当時ノンポリで運動にかかわらなかった大勢順応型の多数派の人たちです。全共闘経験者は団塊世代の一部ではあっても全体ではないのです。

 そして全共闘運動の高揚期は短く、退潮期は長かった。退潮期に起きた日本赤軍事件は、理想主義に燃えた運動の無残な終幕劇となり、社会運動への大きな忌避感を残しました。「ああいうことをやるとロクでもない結果になる、あれが彼らの末路だ」というシニシズム(冷笑主義)は、その後40年もの長期にわたって続きます。

 団塊の後の世代が学んだのは、彼らの理想主義ではなく、理想主義の惨憺たる敗北でした。これが思想史上にも残る団塊世代の大きな罪です。

 全共闘運動の参加者たちはその後、過去の組織力を生かして反原発や環境保護、生協運動など、市民運動と住民闘争に地道にかかわっており、決して沈黙してはいませんが、政治的な力は持ちにくかった。これは、日本のスチューデント・パワー世代の特徴です。

 全共闘運動のピークはベトナム戦争下でもあり、世界的にも反戦を謳った戦後世代の異議申し立てが非常に大きな影響力を持ちました。ドイツの学生運動は緑の党に発展したし、アメリカではクリントン元大統領が団塊世代(ベビーブーマー)の生んだ政治家です。イタリアやフランスでもこの世代は政治的な影響力を持ったのに、日本の団塊世代からは政治家がほとんど出なかった。

 社会運動出身者で首相になったのはただ一人、あっという間に退任した菅直人氏だけ。同じ世代に鳩山由紀夫元首相と菅義偉前首相がいますが、いずれも短命政権で終わり、政治家は次の世代に移りました。これだけのボリュームゾーンでありながら、政治的求心力を生むことも、主流政治に食い込むこともできませんでした。

 しかし、団塊世代にも「罪」ばかりではなく「功」の部分があります。


(続きは『中央公論』2023年4月号で)


構成:高松夕佳

中央公論 2023年4月号
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上野千鶴子(社会学者)
〔うえのちづこ〕
1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。博士(社会学)。専門は女性学、ジェンダー研究。東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。『近代家族の成立と終焉』(サントリー学芸賞)、『おひとりさまの老後』『ケアの社会学』など著書多数。
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