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図書館は外国人住民のシェルターになれる...多国籍タウン・大久保と向き合って

米田雅朗(新宿区立大久保図書館館長)

少数言語の本は1冊でもあることに意味がある

――大久保図書館は、全国的にも先進的な外国人住民向けのサービスを提供することで注目されています。どんな取り組みをしているのか教えてください。


 本館の運営理念は、国籍と人種を越えて違いを尊重し合う、誰も置き去りにしないというものです。

 その理念のもと、まず外国語の資料を積極的に収集しています。一般の図書館は英語の本が一番多いのでしょうが、本館では地域性に合わせて、韓国語と中国語が多く、次に英語の順です。これらの他にもタイ語、ウズベク語、タミル語、タガログ語、ウルドゥー語、ネパール語......と少数言語の本も取り揃えていて、昨年4月時点で総計37の言語に及びます。

多文化図書コーナー

 以前、ネパール出身の方がこんなことを話してくれたんです。「自分の国の言葉の本が図書館に1冊でもあると、自分がその街に受け入れられている気持ちがして、とても嬉しい」と。これを聞いてから、どんな少数言語の本でも、1冊でもあることが大事なんだと強く思うようになりました。たかが1冊かもしれないけれど、彼らにとっては10冊、20冊に匹敵する価値がある。

 どうやって仕入れる本を決めているかというと、それも様々です。基本的には、外国語の本を扱う専門の書店と相談して、国籍ごとの区内の人口などを考慮しながら毎年計画的に購入しています。

 また、近隣の幼稚園や小学校と連携をとって仕入れることもあります。近隣の教育機関には外国ルーツの子どもがたくさん入ってくるのですが、ある時幼稚園から、「タイの子が入園したんですがタイ語の本はありますか」と問い合わせがありました。またある時には、「南米のスペイン語圏の子が入ったんですが、スペイン語の本はありますか」と連絡がありました。本館はアジアの言語はたくさん揃えているので、タイ語はあったものの、スペイン語はまだなかったので、「買いますから安心して来てください」と答えました。仕入れてしばらくしてから確認してみると、その言語の本がちゃんと貸し出されているんですね。幼稚園から情報をもらって来ているんだと思います。

 この他にも、館内に外国語の蔵書リクエストカードを置いていて、その要望に応じて購入するケースや、利用者の方が寄贈してくれることもあるんです。少し前に、ネパールの方が一時帰国した際に、現地で話題の本を買って、うちに寄贈してくれました。別のネパールの方がその本を見つけて喜ぶ、なんてこともありましたね。

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