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図書館は外国人住民のシェルターになれる...多国籍タウン・大久保と向き合って

米田雅朗(新宿区立大久保図書館館長)

多言語とふれあう場をつくる

 もう一つ大きな取り組みとしては、多言語を使ったイベントを開催していることです。

 メインは様々な言語の絵本を使って、外国ルーツの子どもに読み聞かせをする、おはなし会です。コロナ前は毎月2回のペースで開催していましたが、コロナで一度中断し、今は月に1回のペースで開催しています。2月には、日本語学校との協力でウクライナ語のおはなし会を行いました。その前の1月には中国語。それ以前にはネパール語、韓国語、タガログ語......と毎回言語を変えてやっています。

 おはなし会では絵本を読み聞かせるだけでなく、時にはその国の写真や服飾などの文化を紹介する展示も一緒に行い、外国語にふれるだけにとどまらない、文化の相互理解の場にもしていますね。外国の方だけでなく、日本人も参加していて、常連の方もいるなど、ご好評をいただいていると感じています。

おはなし会について話す米田氏

 また、外国語ではなく、外国人にも分かりやすいように配慮した「やさしい日本語」を学ぶ会も開いています。さきほどの新宿区の調査では、外国人住民に「日本の生活で困っていることや不満なこと」も尋ねていて、回答の中で一番多いのが、やはり言葉の問題です。そして、日本人と交流したいがそういう場がないという回答もありました。何かできないかと思っていた時に、北欧のデンマークでは、図書館員と外国人住民がデンマーク語で話すイベントをやっていることを知ったんです。ちょうど同じ頃に、「多言語多読」という外国語習得を支援するNPOの方と知り合って、実現しました。外国語を身につけるためには、簡単な言葉でいいからとにかく大量に読んで聞くことが大事らしく、この会では日本語の絵本をみんなで読むようにしています。

 他に、ビブリオバトルというイベントも定期的に開催しています。外国人と日本人が一緒になって、一人5分、おすすめ本を発表し合い、その魅力を日本語で紹介するものです。さらに、本を紹介することにハードルを感じる人のために、スピンオフとして「モノトーク」というイベントも行っています。こちらでは本の代わりに自分の大事なモノを紹介します。

 ここまでに紹介した取り組みは本に関わることですが、それだけではありません。外国人住民の方が生活していくうえで必要な情報を多言語で提供しています。ゴミの出し方や、消費者トラブルと詐欺への注意喚起。また、「仕事をする人のために大事なことが書いてあります」という見出しで、「給与明細は捨てては駄目」とか「仕事でけがをした際にどうすればいいか」といった具体的な情報を箇条書きにしたパンフレットなどを、館内の目に入りやすい場所に置いています。貸し出しカードを新たにつくった方に一緒に渡したりもしていますね。

 また、館内の案内板などに記載する情報も可能な限り多言語で表示していますし、そうでない場合もやさしい日本語で記載するようにしています。


――日本人の利用者からはどういった反応がありますか。


 私が館長になった頃は、本館への投書の中にネカティブなものがまだありましたね。でも、最近は少なくとも投書はなくなりました。もちろん、投書がないだけで、本当はどう思っているかは分かりません。ただ、さきほどの新宿区の調査結果とも関連するかもしれませんが、館内で外国人住民の方が日本人に交じってニコニコ楽しそうにしているのを日常的に目にするうち、自然と反感もなくなっていったのではないかと思います。

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