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日本医療の構造的課題と流すべき「血」

木下翔太郎(慶應義塾大学特任助教)

人件費高騰と医師不足

 また、医療分野の場合、人手確保の問題など、独自の課題が多くある。

 日本の医療の特徴を図にまとめた。日本は、患者1人当たりの年間受診回数、人口当たりの病床数・病院数がOECD諸国の中でもトップクラスに多いにもかかわらず、人口当たりの医師数はOECD諸国の平均より少なくなっている。特に、日本は中小規模の病院の数が多く、約8000もある。結果として、日本は他国より病院が多く、提供しているサービスの量が多い一方で、他国より少ない医師数でそれを回しているという状況であり、構造として歪(いびつ)なものになっている。また、諸外国では、軽症患者の診察・処方は看護師が担当する場合などもあるが、日本では医師が全て診察する制度となっている。そのため、医師の過重労働も常態化している。

 このように医師という医療資源が、多くの病院に広く薄く分散している中で、新たに人手を確保するのは容易ではない。特に日本では、医師が自由に勤務地を選べてしまうことから、人手が多いことで1人当たりの負担が少なくなる都市部は医師が集まりやすく、地方はその逆である。地方の病院、特に過疎地では、人手確保のため都市部よりも給料を高く設定しているケースも多いが、それでも多くの医師は地方に行きたがらない。このような背景から人手確保に難渋し、医師が確保できない科の診療を停止するなど、診療体制の縮小を余儀なくされている地方病院も多いようである。その上、診療体制を縮小すると患者数が減って収益が減り、さらなる赤字につながる可能性もある。


(『中央公論』2月号では、進まない病院の統廃合や、「直美(ちょくび)」など自由診療の問題、医療DXの可能性についても論じている。)

中央公論 2026年2月号
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木下翔太郎(慶應義塾大学特任助教)
〔きのしたしょうたろう〕
1989年神奈川県生まれ。千葉大学医学部在学中に国家公務員総合職採用試験合格。内閣府、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室などを経て、慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座特任助教。東京大学大学院学際情報学府博士課程在学。医師、博士(医学)。専門は社会医学、デジタルヘルス。著書に『現代日本の医療問題』など。
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