中国SFは日本にどのように紹介されたか
では、中国SFは日本にどのように紹介されたのであろうか。ここでもケン・リュウの存在が大きい。実は90年代から林久之などによって中国SFの翻訳・紹介が行われていたものの、世間の注目を集めるには至らなかった。しかし、2018年にケン・リュウ編『折りたたみ北京―現代中国SFアンソロジー』(早川書房)がヒットしたことで、中国SFが認知されるようになったのである。
表題作のカク景芳(カクは赤におおざと)「折りたたみ北京」(大谷真弓訳)は、中国の格差社会をSFらしいダイナミックな奇想で描き、大きな衝撃を与え、2016年にヒューゴー賞ノヴェレット部門を受賞した。短篇13篇とエッセイ3篇が収録された本書は、中国SFの入門書として最適といえよう。ケン・リュウが編んだアンソロジーとしては、その後、『月の光―現代中国SFアンソロジー』(早川書房)も出ていて要チェック。また、ケン・リュウ訳に基づく陳楸帆『荒潮』(中原尚哉訳、早川書房)もある。
このように日本でも、ケン・リュウが編集・英訳した作品を日本語に翻訳する形で中国SFは受容されたのである。『三体』三部作が翻訳されたのも、アメリカでケン・リュウ訳の人気に火が付いたことを受けてのことだった。そのため翻訳は中国語からであるものの、その構成・内容自体は英訳版に依拠している。