中国SFの勢いが止まらない。全世界累計2900万部を突破した劉慈欣の『三体』シリーズを始め、中国から生まれた良質な作品が世界中で注目を浴びている。「SFと銘打つと売れない」という時代も今は昔。なぜ今、中国SFがこの日本でも読まれるようになったのか?中華SF愛好家で、自身も翻訳を手掛ける大恵和実氏がその謎に迫る。
- モンスター級のSF小説『三体』
- ケン・リュウの登場が事態を一変させた
- 中国SFは日本にどのように紹介されたか
- 高まるカク景芳人気
- 中国SFの魅力とは
- 『中国史SF短篇集 移動迷宮』について
モンスター級のSF小説『三体』
最近、書店やSNSで目にする『三体』って何? 中国SFって流行っているらしいけど本当? そもそも中国にSFなんてあるの? ここでは、そんな疑問に答えていきたい。
『三体』とは何か。それは中国のSF作家 劉慈欣が2008~2010年に書いた小説で、激動の中国現代史&異星人とのファーストコンタクト(第一部)から、時空を超えた壮大な幕引き(第三部)に至る傑作SFである。2014年にアメリカで第一部の英訳版が刊行されると、オバマ元アメリカ大統領やfacebook共同創業者のマーク・ザッカーバーグらが激賞し、2015年にアメリカで最も権威あるSFの賞の一つであるヒューゴー賞長編小説部門を受賞した。これはアジア人初の快挙だ。
既に20カ国以上に翻訳され、全世界の発行部数は2900万部を超えている。まさにモンスター級のSF小説といえよう。
日本でも2019年に第一部(大森望等訳、早川書房)が刊行されるや、すぐさま十万部を突破し、星雲賞(こちらは日本の歴史あるSFの賞)を受賞したほか、早川書房が毎年刊行している『SFが読みたい』でも年間ベスト1位に選ばれた。第二部(大森望、立原透耶、上原かおり、泊功訳『三体II 黒暗森林』)までの日本での発行部数はシリーズ累計47万部を突破し、SFファンの枠をこえて読まれている。このほど完結編である第三部(大森望、光吉さくら、ワン・チャイ、泊功訳『三体III 死神永生』)が出たことで、再び人気が沸騰しているのだ。