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『三体』がヒットしたのは必然だった!? 中国SFが世界をトリコにしている4つの理由

描かれるのは中国固有の問題か、人類普遍の問題か
大恵和実(中華SF愛好家)

高まるカク景芳人気

しかし、近年では、英語版を介さず、中国語から直接日本語に翻訳されるケースが増加している。なかでも「折りたたみ北京」の作者であるカク景芳の人気は高い。

2019年に『カク景芳短篇集』(及川茜訳、白水社)が出たほか、2021年にもAIと人間の関係に焦点をあてた『人之彼岸』(立原透耶・浅田雅美訳、早川書房)が刊行された。また、2020年に翻訳刊行された『1984年に生まれて』(櫻庭ゆみ子訳、中央公論新社)は、1980年~2010年代の中国を悩みながら生きた父・娘の物語とジョージ・オーウェル『1984年』をからめた自伝体小説で、第七回日本翻訳大賞の最終候補作となり、SFの枠を超えて高く評価されている。

『1984年に生まれて』(カク景芳著、櫻庭ゆみ子訳/中央公論新社)

なお、現在、カク景芳はSF作家として活躍するのみならず、映像製作スタジオを立ち上げ、SFドラマシリーズの製作も進めている。さらには都市と農村部の格差縮小を視野に入れた教育事業(童行学院)も行うなど、マルチな才能を発揮している。

中国SF翻訳のターニングポイント

さて、何といっても中国SF翻訳のターニングポイントとなったのが、2020年に出版された立原透耶編訳『時のきざはし―現代中華SF傑作選』(新紀元社)である。本書は、中国SFの翻訳・紹介を牽引してきた作家・翻訳家の立原透耶氏が、時代・性別・作風のバランスに配慮して選りすぐった日本オリジナルアンソロジー(中国・台湾の作家十七人の作品を収録)であり、この一冊で90年代から現在までの中国SFを一望することができる。

宇宙飛行士の成長譚である江波(大久保洋子訳)「太陽に別れを告げる日」、言語SFとミステリが融合した昼温(浅田雅美訳)「沈黙の音節」、90年代に多層的VR(仮想空間)を描いた先駆的な王晋康(上原徳子訳)「七重のSHELL」、清末の爆発事件を追う歴史考証SFの梁清散(大恵和実訳)「済南の大凧」、農村に嫁いだ異星人を描くジェンダーSFの凌晨(立原透耶訳)「プラチナの結婚指輪」、地下鉄の日常風景が不気味で奇妙な世界に転じてしまう韓松(上原かおり訳)「地下鉄の驚くべき変容」などなど、魅力あふれる作品がずらりと並んでいる。

さらに、近年刊行された柴田元幸・小島敬太編訳『中国・アメリカ謎SF』(白水社、2021年)や橋本輝幸編『2000年代海外SF傑作選』・『2010年代海外SF傑作選』(ハヤカワ文庫、2020年)に中国SFが収録されているように、もはや海外SFを語る際に中国SFをはずすことはできなくなっているのである。今後も間違いなく中国SFの翻訳・紹介の波は続くのでお楽しみに。

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