2500年前まではヒトの寿命は15歳だった
まず、日本人の寿命の変遷を見てみましょう。
大昔は戸籍のようなデータはないので骨や歯などからの推定ですが、旧石器〜縄文時代(2500年前以前)には、日本人の平均寿命は13〜15歳だったと考えられています。この時代は狩猟が主で、ヒトは小さな集団で暮らしていました。
旧石器時代はマンモスなど大型の哺乳類を狩っていましたが、氷河期以降は、海産物や木の実、シカ、イノシシといった動物などを食べていました。この時代のヒトの平均寿命が他の霊長類(サル)よりも短いのは驚きです。
環境に左右され生活が安定していなかったこと、狩猟での事故死、そして何より病気や栄養不足による乳幼児の死亡率が非常に高かったために、平均の寿命は短くなります。アクシデント的な死に方がメインでした。人口も10万〜30万人と変動が大きかったようです。
つまり20万年ほど前にアフリカで誕生し、その後新天地を求めて世界中に広がっていった"裸のサル"であるヒトは、まだ悩める存在だったのです。
もちろん全員が13〜15歳で死ぬわけではなく、幼少期を生き延びられたヒトは出産・子育てをして30代、40代までは生きました。
現在よりも多産で多死のこの状態が、結果的に多様性を生み出し、のちの人類の大躍進につながった可能性もあります。ちなみに身長は、現在より10センチメートルほど小柄だったようです。
弥生時代に入ると、日本人は稲作を始めました。これは大陸から来た技術です。稲作で収穫量を上げるには人々が協力する必要があるため、生活集団が大きくなって組織化された村(ムラ)が誕生し、指導者的な人物も現れました。
食生活は狩猟中心の生活から定住型となり、安定はしてきましたが、やはり技術が低いため天候に収穫量が左右されることも多くあったと思われます。
乳幼児の死亡率も多少は改善されてきました。平均寿命は20歳、人口は急激に増加して60万人とも推定されています。それから寿命はしばらく横ばいで、奈良時代以降は少しずつ延びていきました。
平安時代には平均寿命は31歳、人口は700万人になりました。ただ、続く鎌倉、室町時代には気候変動による不作や政治の不安定化、それに連動して「いくさ」などが頻繁に発生し、平均寿命はまた20代に逆戻りしました。
室町時代の平均寿命はなんと16歳です。
その後、江戸時代に入ると社会情勢は安定して、さまざまな文化が花開きました。平均寿命も38歳まで延び、有名な人物では徳川家康は73歳まで生きています。明治、大正時代の平均寿命は、それぞれ女性44歳、男性43歳と延びました。
戦争中は31歳となりましたが、戦後は順調に回復し、70年後の現在(2019年のデータ)では、前述のように女性87・45歳、男性81・41歳で過去最高を記録しました。最近100年間で寿命がほぼ2倍に延長したわけです。
こんな生物は、他にはもちろんいません。そしてその変動の理由は、生理的なものではなく主に社会情勢に大きく影響を受けてきたわけです。