老化の始まりが徐々に遅くなっている
戦後、日本人の平均寿命が延びた大きな理由の一つは、乳幼児の死亡率が低下したからです。
その主な要因は、栄養状態が良くなったことと公衆衛生の改善です。栄養状態は子供の免疫力を高め、病気になりにくくなりました。公衆衛生の改善は、それまでヒトを苦しめていた伝染病を減らしました。
図1を見てください。戦後からの生存曲線を示しています。生存曲線はそれぞれの年齢(横軸)での人口10万人あたりの生存数(縦軸)を示しています。
具体的に見てみましょう。
戦後の1947年には、グラフが左上から右下までほぼ直線に近い形になっています。これは各年齢での生存率がほぼ一定であまり変わらないことを示しています。アクシデント的な死に方をする生き物に見られる特徴です。
しかも乳幼児(0歳付近)の生存数が急激に下がっています。その後、戦後の復興が進むにつれ、1975年には乳幼児の生存率はほぼ100%となり、さらに2005年には55歳までの生存率も100%近くになり、グラフが逆S字形になってきています。
これは、若年から中年までのヒトはほとんど死ななくなったことを示しています。
さらに2005年、2019年のデータでは、85歳くらいからグラフが急に下がる、つまり生存率が下がる(=死亡率が上がる)ようになります。この急に下がる年齢は多くのヒトが亡くなる年齢で「生理的な死」の時期を示しています。
つまりアクシデントではなく、老化による寿命です。この生理的な死の年齢が徐々に延びている(遅くなっている)ということは、老化の始まりが遅くなっていることを意味しています。
実は、生理的な死の時期を考える場合、平均寿命よりもこのグラフの形のほうが重要です。
平均寿命は乳幼児や若年層の死亡率が大きく影響するので、老化の実態は見えません。例えば室町時代の平均寿命は16歳といっても16歳で多くの人が亡くなるわけではなく、実際には40歳、50歳の人もたくさんいるわけです。